第169話 書店

 紀伊國屋書店に着くとすぐに三上部長と雪乃先輩はSFとミステリーの文庫のコーナーに移動した。ここはハヤカワ文庫、創元文庫がずらっと並んでいる。もちろん、俺もここが主戦場だ。


「あ、この本、新しいカバーで出てますね」


「そうだな」


「これは初めて見ますね」


 俺と三上部長はSF談義に花開く。その横で雪乃先輩はミステリーを吟味していた。


 しばらく見ていたが、そういえば、陽春たちはどこに行ったかな。そう思い、見回すとすぐ近くに居た。あれは……ハーレクインのコーナーだな。冬美さんが2人にいろいろ説明しているようだ。


 俺も行こうかとすると雪乃先輩に腕を捕まれた。


「あそこは男子が行っちゃダメよ」


「そ、そうですか……」


 俺は大人しくSFを見ることにする。やがて三上部長と雪乃先輩がハードカバーの方に移動したので俺も一緒に移動した。ハードカバーの本は値段は高いがここにも面白そうな本が多い。


 そこを見ていると陽春、立夏さん、冬美さんもやってきた。ん?


「陽春、ちょっと顔が赤いようだが大丈夫か?」


「だ、大丈夫だから!」


 陽春がやけに大声で返事をした。


「そ、そうか」


「冬美、陽春ちゃんに変なの見せてないでしょうね」


 雪乃先輩が言う。


「別に。私のお勧めを見せてあげただけよ」


「そのお勧めが危ないのよね」


「危なくないから。ね、陽春ちゃん」


「う、うん。大丈夫……」


 うーん、気を付けた方が良さそうだ。


 結局、雪乃先輩がミステリーを1冊、三上部長がSFを一冊、冬美さんがハーレクイーンを1冊買って、俺たちは書店を出た。


「陽春ちゃん、後で貸してあげるね」


「う、うん……」


「……それじゃあ、服見ようか」


 雪乃さんが言う。


「うん!」


 雪乃さんと冬美さんは服屋に入っていく。それに立夏さんと陽春も付いていった。


「……俺たちはどうします?」


 三上部長に聞いてみる。


「この辺りにでも座って待つか」


「ですね」


 俺と三上部長はベンチに座ってスマホを見始めた。


「女性陣が服を見だしたらいつもこんな感じですか?」


 いつもは三上部長と雪乃先輩、冬美さん、立夏さんの4人で遊んでいるからこうなることも多いのではないだろうか。


「いや、いつもはちゃんと服を見てるぞ」


「え、そうなんですか」


「俺一人で座ってるのもなんだからな。今日は二人だからいいだろう」


「そう……ですかね」


 すると、すぐに雪乃先輩が現れた。


「大地、何座ってるの。服選ぶの手伝ってよ」


「あ、そうだな……」


「櫻井君も。陽春ちゃんの服見てあげて」


「あ、はい……」


 俺たちは結局服を選ぶのを手伝うことになった。


「陽春、何か選んだのか?」


「うーん、ちょっと私の趣味とは違うかなって」


 ここはかわいい系の服が多く、陽春の好みではないようだ。


「和人君!」


 少し遠くから声が聞こえた。立夏さんか。陽春と2人で声の方に行ってみると、試着室に立夏さんが居た。


「どうかしら?」


 立夏さんが花柄のワンピースを試着していた。


「あ、かわいい!」


 陽春が言う。


「陽春ちゃん、ありがとう。で、和人君の感想は?」


「い、いいんじゃないかな」


「そう。なんか今ひとつね。じゃあ、着替えるからちょっと待ってね」


 サッとカーテンが閉まった。

 しばらく待っているとカーテンが開いた。


「どうかしら?」


「いいねえ!」


 陽春が言う。


「ありがとう。で、和人君は?」


「う、うん。いいと思う」


「……これも反応薄いわね。じゃあ、違うのにするからちょっと待って」


 またカーテンが閉まった。

 陽春が小声で言う。


(和人、褒めないと終わらないよ)


(わ、わかった)


(思いっきり褒めていいから)


(うん)


 再びカーテンが開いた。だが、今度はかなり大胆な服だ。いろんなところが透けてるし、胸元は直視できない。これを褒めるのかよ。


「どうかな?」


「うん! すごくいいよ!」


 陽春は躊躇無く褒めていた。俺も褒めるしかないか。


「そうだな。すごくいいと思う」


「ふーん……和人君、こういうのが好きなんだ。やっぱり男の子ね」


 なんか誤解されたような……


「じゃあ、これ買おうかな。うん、そのまま着ていこう」


「え、さすがにそれは……」


 陽春が言う。


「だって、和人君がこれ好きって言うから」


「でも、結構きわどいような……」


「そういうのが和人君好きなんだから仕方ないでしょ」


「うう……」


 陽春が困っているところに冬美さんが来た。


「立夏、さすがにそれは……」


「そう?」


「そうだ、これはどう?」


 冬美さんが持っている服を立夏さんに渡した。今、冬美さんが来ているようなかなり派手な服だ。地雷系と言ったか。


「あ、それ、いいかもね!」


 陽春が言い出す。


「確かにいいかも」


 俺もそれに乗ってみた。


「……そう? じゃあ、試してみようかな」


 立夏さんはまた着替えだした。


 再びカーテンが開く。


「どうかな? ちょっと派手じゃない?」


 冬美さんが選んだ服だから、いつもの立夏さんのイメージとはかなり違う。黒いフレアスカート、上は白いブラウスにリボン。いわゆる地雷系なのだろうか。アイドルのような服だな。


「うん、いいよ! 一番いい! ね、冬美さん、和人」


「そうね、いいんじゃない」


「そ、そうだな。今まで一番いいよ」


「そう? 和人君の趣味、こういうのなんだ。じゃあこれにしようかな」


「う、うん。それで!」


 結局、立夏さんは少しアイドルっぽい、地雷系?な服になった。

 ギャップはあるが、結構似合ってると思う。


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