第168話 光の森
海水浴で疲れた体を土曜日に回復し、今日は日曜日。俺と陽春がやってきたのは、
他のメンバーは三上部長、雪乃先輩、立夏さん、冬美さん。この4人は長崎家の車で送ってもらったらしい。当初はこの4人で遊ぶ予定だったのに俺たちが加わった形だ。まあ、立夏さんが陽春に俺を貸せと言ったのが原因だが……
待ち合わせ場所の2階のフードコートに入る。このショッピングセンターは休日は特に人が多い。
「うーん、みんな、どこに居るんだろう……」
「マックの前辺りと言ってたぞ……あ、あそこだ」
俺は部長達4人を見つけた。
「あ、ほんとだ。おーい!」
陽春が大声を出したことでみんな気がついた。俺たちは急いで4人の元に向かった。
「陽春ちゃん、大声出さない。恥ずかしいでしょ」
「ごめん、つい……」
いきなり冬美さんに怒られた。それにしてもこの4人の私服姿は初めてだから新鮮だ。三上部長はシャツにスラックス。大人だ。雪乃先輩はデニムのワンピース。清楚だ。立夏さんは白いワンピースで可憐な感じ。そして、冬美さんは何か派手なアイドルっぽい服を来ている。俺は思わず冬美さんの服をじっと見てしまった。
「こら、見とれない」
陽春が俺を叩く。
「ご、ごめん」
「ん? あー、私の服ね。いいでしょ、地雷系って感じで」
「うん、すっごく可愛い!」
地雷系というのか。陽春も気に入ったようだ。
「ふふ、和人君と陽春ちゃんの私服姿も新鮮ね」
立夏さんが言った。
「そう? ウチはいつもこんな感じだよ」
今日の陽春はいつものようにTシャツにショートパンツ。俺は陽春からもらったポロシャツとジーンズだ。
すると冬美さんが言う。
「陽春ちゃん、デートなのにそんなラフな格好なの?」
「え、ダメかな?」
「ダメじゃないけど、もうちょっとおしゃれした方がいいんじゃない?」
「そ、そうかな……」
「私のようにこういう――」
「無理」
陽春に地雷系はさすがに無理だろうな。
「冬美の服は陽春ちゃんには合わないわね。立夏ちゃんのような服がいいんじゃない?」
雪乃先輩が言う。
「立夏ちゃん?」
陽春がその呼び方に食いついた。いつもの雪乃先輩は『立夏さん』と呼んでいたはずだ。
「あ、今は部活じゃないからね。『部長』じゃなくて『大地』。『立夏さん』じゃなくて『立夏ちゃん』ね。普段はそう呼んでるの」
「えー! じゃあ、私も『立夏ちゃん』って呼びたい!」
「ダメよ。陽春ちゃんは『立夏さん』で」
立夏さんが言う。
「なんでよ! ウチのこと『陽春ちゃん』って呼んでるのに」
「陽春ちゃんは『陽春ちゃん』って感じだもん。私をちゃん付けで呼んでいいのは年上の人に限るから」
「むぅ……仕方ないなあ」
陽春は不満があるようだけど、確かに立夏さんは『ちゃん』という感じじゃないしな。
「……じゃあ、行きましょうか」
雪乃さんが言った。
「え、どこに?」
「そりゃ、文芸部ですもん。本屋よ」
そう言って雪乃先輩と三上部長が先に立って歩き出した。その横に冬美さんが並ぶ。その後ろに、陽春と俺と、その横に立夏さんが並んだ。
「和人君、ここの紀伊國屋は来たことある?」
立夏さんが聞く。
「うーん、だいぶ前に来たことがあるような……」
ここは遠いので親に連れられて来たことぐらいしかない。
「そっか。ここは結構大きいから和人君も楽しめるんじゃないかな」
「そ、そうだね」
立夏さんと話してると陽春が突然俺の腕をつかんできた。
「陽春ちゃん、なにしてるの?」
立夏さんが言う。
「ウチガ彼女だから別にいいでしょ」
「じゃあ、わたしも――」
「立夏さんは彼女じゃないでしょ!」
「そうだっけ?」
「なんでとぼけるのよ、まったく……」
「冗談よ。はぁ、今日は見せつけられるのか。わかってたけど……」
立夏さんが落ち込んだ表情を見せる。すると、陽春は俺の腕を放した。
「ごめん、ごめん。和人が立夏さんと仲良く話してるのみたら
「……ありがと、陽春ちゃん」
陽春も立夏さんと仲良くはしたいようだ。
フードコートから紀伊國屋まではしばらく歩く。俺たちの前には三上部長の右に雪乃先輩、左に冬美さん、という状態だ。そして、角を曲がるとき、冬美さんが部長の腕に抱きついた。
(ちょっと、立夏さん、あれいいの?)
陽春が前を指さして言う。
(いいんじゃない? いつもあんな感じよ)
(雪乃先輩怒らないの?)
(最初は怒ってたけどもう慣れたみたいね)
「……雪乃師匠、さすがだなあ」
陽春がぽつりと言った。それに気がついた冬美さんがこっちを見る。そして、慌てて腕を放した。
「えっと、これは……その……」
冬美さんが俺たちに言い訳しようとする。
「冬美さん、ほどほどにね」
陽春が言う。
「う、うん。今のは見逃してちょうだい」
「貸し一つね」
「わ、わかった。誰にも言わないで」
冬美さんは陽春に貸しができたようだ。
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