第167話 帰りの車内

 午後3時近くなり、和人たちは帰ることにした。シャワーを浴び、みんな来たときの服に戻り、トンネルを抜け駐車場まで戻ってきた。


「じゃあ、帰りは車のメンバー少し変えよう!」


 車に乗る前に陽春が突然言い出した。


「え、なんでですか? 私は陽春先輩と一緒がいいです」


 上野さんがそう言って陽春ににじり寄る。


「うんうん、ウチと雫ちゃんは同じ車だよ。ということは和人、交替ね」


「俺かよ。別にいいけど。じゃあ、誰が亜紀さんの車に乗る?」


 達樹か笹川さんか、不知火か。

 不知火が行くんだろうとは思ったが一応聞いてみた。


「そうねえ、じゃあ雫ちゃん、選んで」


 陽春は上野さんに誰を乗せるかを選ばせようというのか。

 これで不知火を選んだら、不知火は歓喜するな。


「じゃあ、理子先輩で」


「私?」


「はい、ガールズトークと行きましょう」


「いいねえ」


 上野さんが選んだのは笹川さんだった。不知火は落ち込んでるようだが、まあ仕方ないな。

 結局帰りの車は女子チームと男子チームか。


 男だけになった帰りの車内、俺は聞いてみた。


「幸樹さん、亜紀さんとはどんな感じですか?」


「うーん、とりあえず普通の友達には戻れそうだよ」


「そうですか」


「和人君のおかげだよ、ほんと助かった」


「いえ、そんな……」


 偶然とは言え、仕事は出来たか。あと聞いておきたいのは……


「不知火、お前、海で上野さんと二人きりだったな」


「あ、はい、そうですね……」


「どんな話したんだ?」


「うーん、まあいつもと変わらない感じの話ですね」


「そうか」


 こちらは進展無しか。


「でも、二人で遊ぶ約束は取り付けました」


「お! やったじゃん!」


 達樹が言う。


「はい、でも、同級生が居なさそうな、人の少ない場所、って約束でしたんで、どこがいいかわからず、ちょっと困ってます」


「なるほどなあ。だったら、遠出しかないんじゃないか?」


「遠出ですか……」


「うん、車はなくても電車でどこか行けるだろ。今だったら阿蘇もあるぞ」


「そ、そうですね」


 阿蘇か。確か、南阿蘇の鉄道が熊本地震からようやく復旧したと少し前のニュースでやっていたな。


 不知火と上野さんも進展がありそうだ。


 それにしてももう一台の車ではどんな話が行われているか、気になるな。


◇◇◇


 私、浜辺陽春はお姉ちゃんが運転する車内で雫ちゃんと一緒に後部座席に居た。海水浴の帰り、女子だけになったので、いろいろと聞きたいことがある。


「それで、お姉ちゃんたちはどうなったのかな?」


 まずは姉の亜紀と小林達樹君の兄、幸樹さんの話だ。


「別にどうもなってないから」


「またまた……騎士ナイトに助けてもらって、まんざらでも無かったんじゃ無い?」


「あいつに助けられてもねえ」


「惚れ直した?」


「惚れ直すとか無いから。別に……元々嫌いにはなってないし。でも、またやり直しても同じ事だからねえ」


「そっかあ」


「ま、でもまた友達からって感じにはなったよ」


「へぇー、いいじゃん」


「別に何も変わらないよ。新しい彼を探すことに変わりは無いから」


「ふーん」


 こちらはこれ以上深掘りしない方が良さそうだ。


「じゃあ、次は雫ちゃんかな。不知火と二人で何話してたのかな?」


「別に……いつものような話ですけど」


「いつものねえ」


「……まあ、二人で遊びに行こうとは誘われましたけど」


「へえ、そうなんだ。で、どうするの?」


「……同級生に見られないようなところならって言いました」


「つまり、デートをオッケーしたと」


「……なんですか。別にいいですよね」


「いいけどねえ」


 私の知る限り、二人だけでデートしたことはないはずだ。これは結構進展したな。


「そういう陽春先輩もキスしてましたよね」


「ちょ、ちょっと!」


 雫ちゃんが暴露してしまう。


「え、キスしてたの!?」

「陽春、そんなことしてたの?」


 お姉ちゃんと理子が言う。


「そ、そういう雰囲気になったから……もう、雫ちゃん! 言わなくていいでしょ」


「陽春、節度を持った交際を――」


「分かってるから!」


 理子がいつものように言ってくるので、思わず言い返してしまう。


「櫻井にも注意しとこう」


「いいから、もう……」


「そういえば、理子ちゃんたちは途中から居なくなってたけどどこ行ってたの?」


 お姉ちゃんが聞く。確かにそうだ。パラソルから居なくなって海に入ったと思っていたが、見かけなくなっていた。


「……内緒です」


 理子、なんか怪しい。でも、口が堅く、どうしてもどこに行ったか、何していたのか、最後まで言おうとしなかった。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る