第165話 海水浴②
不知火は沖の方に泳いでいき、なんとか陽春と上野さんに追いついたようだ。
そういえば、達樹たちは……と探すとビーチパラソルの下に達樹が居るのを見つけた。その横で寝ている子がいるが、あれが笹川さんだな。俺は近づいてみた。
「このビーチパラソルはどうしたんだ?」
達樹に聞く。こんなものは持ってきては居ないはずだ。
「借りられるんだよ」
「そうなんだ。有料だろ?」
「そのために兄貴が居るんだろ」
そういえば、お金は全部払ってくれるんだっけ。亜紀さんとよりを戻すための協力の約束をしたが何もしてなかったな。さすがに悪いのでまたビーチハウスの方に戻ってみた。すると、亜紀さんはおらず、幸樹さんだけが居る。
「あれ? 亜紀さんは?」
「売店に飲み物買いに行くって」
幸樹さんが言う。
「そうですか……話はどうなりました?」
「まぁ、平行線だなあ。謝ったけど厳しい……」
やはりそうか。
「じゃあ、ここは俺が留守番するんで、幸樹さんは亜紀さんのところに行ってください」
「そ、そうか? すまんな」
「いえ、おごってもらってますし」
「うん。あとで何でも食べろ。ちょっと行ってくるな」
「はい」
俺も陽春を追ったときの泳ぎで疲れていたし、少し休みたかった。ビーチハウスに座る。海の方を見ると、陽春と上野さんは不知火に連れられてこちらに戻ってきているようだから安心だな。
達樹たちは……と見るとパラソルの下でなんかイチャイチャしてるな。なるほど。そういう海の楽しみ方もあるのか。
しばらくすると、陽春と上野さんと不知火がビーチハウスまで戻ってきた。
「和人、休んでたの?」
陽春が言う。
「うん、ちょっと疲れてたからな」
陽春を泳いで追うのは結構大変だった。
「ウチも少し疲れた!」
そう言って俺の横に座る。
「陽春先輩が沖まで押して行くんで大変でした」
上野さんが俺に文句を言う。
「陽春は沖が好きだなあ」
「だって、せっかく来たんだし、できるだけ沖に行ってみたいじゃん!」
「危ないですよ、って私が言っても大丈夫って言って聞かないし…… 正直、びびってました」
「そうなんだ。だから不知火君来たとき、嬉しそうだったもんねえ」
陽春が意地悪そうな笑顔で言う。
「そ、そんなことないですし」
「不知火ー! って叫んでたよね」
「叫んでませんから。ちょっと呼んだだけです」
「不知火君が雫ちゃんを助けに来たヒーローみたいな感じになってたよね」
「そ、そうですかね……」
不知火は少し照れている。
しかし、不知火が上野さんを助けに来たヒーローなら、陽春は悪の手先として上野さんをさらっていったことになるが……まあ、そんな感じか。
「まあ、でも助かったのは助かったけどね。不知火、ありがとう」
「え! 上野さんが俺に礼を言うなんて……」
「何よ。いつも言ってるでしょ」
「いや……」
「言ってるよね」
「う、うん……」
結局、不知火は言いくるめられていた。
「そういえば、理子たちは?」
陽春が聞く。
「あー、あそこに居るぞ」
俺はパラソルを指さした。あれ? 達樹が居ないな。笹川さんは居るが起き上がって横を見ている。笹川さんの視線の先には達樹が走る姿が見えた。なんだろう。
「和人! あれ!」
陽春が指さす方を見ると、亜紀さんが居た。男3人に絡まれている。間には幸樹さんが居るが一人では危ない。俺はすぐに走り出した。俺が到着する前に達樹が先に着いた。俺もなんとかその場に加わる。
「なんだなんだ、湧いて出やがって。チッ!」
男3人は去って行った。俺は何もしなかったが、追い払うことは出来たか。
「大丈夫か?」
幸樹さんが亜紀さんに言う。
「う、うん……」
亜紀さんはおびえていた。買ったのであろう飲み物の袋が下に落ちている。
「達樹、お前はこれ持って理子さんのところに」
「お、おう」
達樹は飲み物2本を持って笹川さんのところに戻る。一人にするのは危ないしな。
「和人君はこれ持ってくれるか」
「あ、はい」
俺は亜紀さんが買った残りの飲み物6本を持った。
「亜紀、行こう」
「う、うん……」
幸樹さんが亜紀さんの肩を抱いて、俺たちはビーチハウスに戻った。
「和人! 大丈夫だった?」
陽春が聞く。
「その場に付いたらすぐ解決したから。俺は何もしてないよ。幸樹さん、何があったんですか?」
「俺が亜紀のそばに行こうとしたら男3人が絡んでたんだよ。一緒に遊ぼうとしつこく言われてたようでね。亜紀、大丈夫か?」
亜紀さんがビーチハウスに座った。
「……うん。あー、恐かった。もう大丈夫。飲み物みんなで飲んで」
俺は飲み物をみんなに渡した。幸樹さんが言う。
「和人君が俺に亜紀のそばに行くように言ってくれたから助けられたよ。ファインプレイだな」
「たまたまですよ」
単におごってもらう分の仕事はしようと思っただけだったが、運が良かったな。
「幸樹さんが助けたのは確かですから」
「幸樹……ありがとう」
亜紀さんが言った。
「いや、当然のことをしたまでだ……でも、ごめんな。彼氏だとか言って」
「いいよ、実際彼氏だったんだし」
「……まあな。完全に嘘じゃないからな。元が付くだけで」
「だね。でも、3対1だし、危なかったよ。私のことなんて助けなくても良かったのに」
「そういうわけにいくか……好きな子が危ない目に遭ってるのに……」
「そっか……」
「さて! ウチたちはまた海に行ってるね!」
陽春が俺と上野さんの手を取り、歩き出す。不知火も慌てて付いてきた。
「亜紀さん、まだ不安でしょうけど居なくて良かったんでしょうか?」
不知火が聞いてくる。
「何言ってるの。あそこは2人にする場面でしょ。陽春先輩、さすがです」
上野さんが言った。なるほど、確かにそうだな。
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