第164話 海水浴①
「海だー!」
陽春が走り出す。トンネルを抜けるとそこは海だった。これもなかなかいいな。
「今日はビーチハウス借りてるよ」
幸樹さんが言う。海辺にある小さい屋根付きの小屋的な場所を有料で借りられるそうで、早速そこに荷物を置いた。
「さて、みんなは着替えてきたら。私はここに居るから」
亜紀さんが言う。亜紀さんは水着には着替えないんだったな。ということで、俺たちはシャワー室に行き、水着になって戻ってきた。だが、まだ女性陣は時間がかかっているようだ。幸樹さんは浮き輪やら何やらを海の家に借りに行った。
「不知火、お前、上野さんの水着見て興奮しすぎるなよ」
達樹が釘を刺す。
「だ、大丈夫ですよ……」
もう緊張気味だな。
そこに女性陣3人が戻ってきた。
「お待たせー!」
陽春が手を振って走ってきた。黄色いセパレートタイプの水着だ。一度は陽春の家で見せてもらっていたが、やっぱり刺激が強く目をそらしてしまう。
「ん? 和人、どうしたのかなあ」
近づいてきた陽春は分かっていて俺の前に来た。
「やっぱり直視するのは……」
「彼氏なんだからいいでしょ。どう?」
俺はあらためて陽春の水着を見た。
「か、かわいいよ……」
「やった! 和人も……意外に胸板厚いね」
そう言って俺の胸と背中を叩く。
「そ、そうか?」
自分ではよく分からない。
「うん、やっぱり男子だなあ」
「陽春もやっぱり、女子だな」
「何よ! 少年っぽいとか思ってた?」
そういえば中学の頃は少年っぽかったって笹川さんや森さんが言っていたな。だが、俺にはそのイメージはない。
「いや、陽春は最初から女子だけどな」
「そ、そう? 何か照れる……」
「こら! そこ! 見せつけるな!」
その声に振り向くと亜紀さんだった。
「す、すみません」
思わず謝る。
「まったく、どいつもこいつも……」
その言葉で周りを見ると、達樹も似たような感じか。笹川さん、スタイルはかなり良いし、達樹はデレデレしている。
不知火は……あれ、なぜか座っていた。上野さんも心配そうに見ている。
「不知火、どうした?」
「す、すみません。少し鼻血が……」
「お前なあ……」
上野さんはワンピースの水着だが、不知火には刺激が強すぎたか。
「櫻井先輩、不知火を頼みます。私が近づくとよりひどくなりそうなので」
上野さんが言う。
「だな。少しビーチハウスで寝てろ」
「はい……」
不知火は上野さんの水着でノックアウトか。
「よし、まずは海に入ろう!」
陽春が言い出した。
「ちょ、ちょっと!」
陽春が俺の手を取って駆けけだしていく。なんとか付いていき、一緒に海に飛び込む。冷たさが気持ちいい。
陽春が俺に水を掛けてきた。う、しょっぱい。当たり前か。
「アハハ、和人、ほれほれ!」
「このー!」
俺も陽春に水をかけ出した。
「うわあ!」
陽春が泳いで逃げていく。俺も泳いで追いかけたが、陽春の泳ぎはすごく速い。
「和人! こっちこっち!」
「陽春、あんまり沖の方に行くと危ないぞ!」
「分かってる!」
そう言いながら、結構沖の方へ泳いでいく。ちょっとまずいな。仕方なく、俺も全力で泳いでなんとか陽春に追いついた。
「はぁ、はぁ、やっと追いついた」
「和人!」
そう言って今度は陽春が抱きついてきた。
「うわ!」
体に感じる陽春の感触がやばい。
「うふふ、ここなら何しても大丈夫かなあ」
岸からまあまあ離れているが、何しても大丈夫な距離では全然無い。
「ダメだろ」
「そっかあ。じゃあ、もっと遠くに行く?」
「さすがに危ないぞ。少し戻ろう」
「……しょうがないなあ」
陽春がようやく岸に向けてゆっくり泳ぎだしたので俺も付いていく。しばらく行くと、浮き輪に入った上野さんが浮かんでいた。
「あ、雫ちゃん、浮き輪なの?」
「はい、こっちが楽なので」
「もしかして泳げないとか?」
「お、泳げますし! でも、浮かんでる方が好きです」
「そっかあ。じゃあ、ウチが押してあげるね」
そう言って、陽春は上野さんの浮き輪を押しながらまた沖の方に泳いでいった。
さすがに疲れたので俺は付いていかず、いったん岸に上がる。不知火の様子でも見てくるか。
ビーチハウスに戻ると不知火が寝ていて、それを挟んで亜紀さんと幸樹さんが居た。何か話したのだろうか。
「おい、不知火。大丈夫か?」
「あ、はい。そろそろ俺も……」
不知火が立ち上がった。
「あれ? 上野さんは?」
「陽春が沖に連れて行った」
「え!? 危なくないですか?」
「大丈夫とは思うが、お前が連れ戻してこい。あそこに居るぞ」
俺は指を指した。ここから見るとかなり沖に出て行ったように見える。
「え? あんなところに! 俺、連れ戻してきます!」
不知火は慌てて海に入っていった。
俺はそれを見送りながらも、ビーチハウスの方に聞き耳を立てていた。亜紀さんと幸樹さんが話している声がうっすらと聞こえてくる。
「……だから、もうそういうことはしないから。絶対!」
「信用できないなあ」
「この通り!」
幸樹さんは謝っているようだ。なんだか、ちょっと前の達樹のようだな。
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