第161話 海へ出発
金曜日。今日は陽春達と海に行く日だ。俺は早朝から路面電車に乗り、陽春の家に来ていた。
インターフォンを押すと、ドアが開き、陽春が出てきた。
「和人、おっはよう!」
「おはよう、陽春。達樹たちは?」
「もうすぐ来るって。外で待とうか」
「おはようございます、櫻井先輩」
上野さんが眠そうな顔で出てきた。そういえば低血圧って言ってたな。
「上野さん、おはよう。眠そうだね」
「はい……昨日、陽春先輩と夜中まで話してたので」
「そうなんだ。でも、陽春は元気だな」
「はい、起きたときは眠そうだったんですけど、すぐにフルパワーになりました」
「さすがだな」
そこに姉の亜紀さんが出てきた。
「和人君、おはよう」
「おはようございます、亜紀さん。お久しぶりです」
「久しぶり。陽春はどこ行った?」
「もう外で道に出てますね」
陽春は達樹たちの車がこないか、道路を見ているようだ。
「昨日から陽春が張り切っちゃって。うるさい、うるさい」
「海でテンション上がってますね」
「そうなのよ。今日、大変だと思うよ。和人君が落ち着かせてね」
「俺にはたぶん無理ですね」
「だよね……」
そんなことを話していると陽春が「来たかも!」と俺たちに言った。
みんなで玄関の前に出ると、そこに車が停まり、達樹と笹川さん、不知火が降りてきた。
「よう、みんな揃ってるな」
達樹が言う。
「うん! 待ちくたびれたよ! 小林君のお兄さん、初めまして!」
陽春が運転席の男性に声を掛けた。この人が達樹のお兄さんか。達樹より背が高い。精悍な顔つきで無精髭もあり、ワイルド系という感じがする。
「初めまして、達樹の兄の
「嘘!」
急に声が響き驚いて振り返る。亜紀さんが驚いた顔で見ている。
「げっ! 亜紀!」
「なにが、『げっ』よ。なんであんたがここに居るのよ」
「なんでって、海に行くからだろ……って、まさか……」
「私も運転よ」
「マジか……友達のお姉さんって……」
「私。はぁ……出会いに期待してたのに幸樹だったの、最悪」
「こっちこそだよ……」
「えっと……」
急に言い合いを始めた2人に口を挟んだのは笹川さんだった。
「お二人は知り合いだったんですか?」
「知り合いも何も……元カレ」
「はあ!?」
亜紀さんの言葉に陽春が驚いて言った。そういえばバーベキューのとき、彼氏が居たことがあるって言ってたが、まさか達樹のお兄さんだったとは……
「私、行くのやめようかな……」
「ちょっと! 海どうするのよ! みんな、楽しみにしてたんだからね!」
陽春が慌てて言う。
「わかってるわよ。海まで送るだけ送るから。別に幸樹と話さなければ良いだけだし」
「そうだな……仕事はお互いちゃんとやろうぜ」
「うるさいわね、言われなくても分かってるわよ」
「じゃあ、先に出発してるから。おい、乗れよ!」
幸樹さんが言ったことで達樹と笹川さん、不知火は車に再び乗り込んだ。
俺たちも亜紀さんの車に乗る。上野さんが後ろの座席に乗ろうとした。
「ちょっと! ウチと和人が後ろだから!」
陽春が言う。
「え、姉妹で前が良くないですか?」
「なんでよ。恋人同士でしょ、普通」
「……仕方ないですね。とりあえず最初は私が前に行きます」
上野さんが助手席に乗った。俺と陽春が後部座席に乗り、車は出発した。もう、達樹たちの車は見えなくなっている。
「幸樹のやつ、飛ばしてるわね。安全運転で行かないと危ないのに。まったく、あいつは……」
亜紀さんはやっぱり不機嫌そうだ。
「お姉ちゃん、小林君のお兄さんと付き合ってたんだ」
陽春が改めて聞く。
「うん……大学のサークルで知り合って、三ヶ月ほどね」
「なんで別れたの?」
「あいつの浮気。すぐ他の女にちょっかい出すんだから」
「そうなんだ……」
達樹は結構一途だから意外だな。兄弟だからってそういうところは似ないのだろうか。
「はぁ。ごめんね、空気悪くしちゃって。私たちのことは気にしないで今日は楽しんで」
亜紀さんが言う。
「う、うん……」
しばらくすると、陽春と上野さんが話だし、それに亜紀さんも加わって次第に雰囲気は良くなっていった。亜紀さんが上野さんに言う。
「雫ちゃんは不知火君と一緒の車が良かったんじゃない?」
「いえ、別に。私は陽春先輩と一緒がいいんで。そうなると、こうなりますよね」
「まあ、そうだけど。ほんと、雫ちゃんは陽春を気に入ってるよね」
「そうですね。でも、亜紀さんも好きですよ」
「え!? そう? 嬉しいこと言ってくれるねえ」
上野さん、亜紀さんには素直だな。
そこに達樹からメッセージが届いた。
達樹『どこか同じ場所で休憩しないか?』
そうだな。このままだと完全に別れちゃってるし、不知火も寂しいだろう。
和人『休憩場所を教えてくれ』
しばらくすると返事が届いた。
達樹『
サービスエリアか。じゃあ、俺たちもそこに停まればいいな。
―――
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