第160話 夏の約束

 夏休みになり、2回目の部活。部室の前で俺はどうするか悩んでいた。そう、名前を言って入るかどうかだ。3年生は分からないが、俺以外の全員が名前を言って入っている以上、俺だけ言わないわけにもいかないか。


「櫻井和人、入ります」


 小さい声で言って扉を開ける。だが、そこには陽春は居なかった。居るのは三年生だけだ。


「櫻井、早かったな」


 確かに今日は昨日より来るのが早かった。まだ12時半だ。


「なぜか早く着いちゃいましたね」


 そこで陽春の声が響いた。


「浜辺陽春! 入ります!」


 中から聞くと大きな声だな。


「和人、早かったね。どうして?」


「なんとなくね」


 その後、立夏さん、冬美さん、そして不知火が到着した。最後に上野さんが部室に来た。


「上野雫、入ります」


 上野さんは大きな鞄を持って部室に入ってきた。


「あれ? 雫ちゃん、その鞄は?」


 冬美さんが聞く。


「この後、陽春先輩の家に泊まって、明日海に行くのでその荷物です」


「そうなんだ。誰と海に行くの?」


「陽春先輩たちと理子先輩たち、それに……不知火ですね」


「へぇー、不知火君も行くんだ」


 冬美さんがニヤッとして上野さんを見る。


「なんですか。先輩たちが不知火を誘ったから仕方ないじゃないですか」


「でも、雫ちゃんは不知火君と一緒に海に行ってもいいってことでしょ?」


「クラスメイトですし別にいいですよ」


「そうなんだ。ふーん」


「……冬美先輩は三上部長と遊びに行かないんですか?」


 上野さん、反撃に出たな。


「ぶ、部長と? お姉ちゃんと一緒なら、今度の日曜行くわよ。立夏も一緒だし」


「そうですか、楽しみですね!」


「た、楽しみだけどね。なんか他意を感じるわね」


「いえいえ」


 そう言って上野さんは作業を始めた。


 すると立夏さんが陽春に聞く。


「陽春ちゃんたち、海行くの?」


「え? うん。そうだよ」


「和人君も?」


「もちろん、そうだけど」


「ふーん、じゃあ、私も……」


「車に乗れる人数限られてるんでごめんね」


 陽春が無難に断る。


「ずるい! 陽春ちゃんばっかり和人君と遊んで!」


「ウチが彼女なんだから当たり前でしょ!」


 陽春が大声で反論する。


「少しは貸してくれても……」


「貸さないから。まったく……」


「陽春ちゃんのケチ」


「ケチじゃない!」


 陽春と立夏さんがにらみ合う。そこで冬美さんが言った。


「あ、そうだ! 陽春ちゃんたちも日曜日来る?」


「え? 日曜日?」


「うん。さっき言ったでしょ。部長たちと遊びに行くって。そこに陽春ちゃんたちも来たら?」


「日曜か……」


「いいわね、陽春ちゃんたちと遊んだことないし」


 雪乃先輩まで言ってきた。


「ただし、立夏さん、和人君と陽春ちゃんに迷惑掛けちゃダメよ。守れる?」


「ま、守ります!」


 立夏さんが言う。

 陽春が俺に聞いてきた。


「和人、どうする?」


「俺は別にいいけど」


 どうも陽春は行きたそうだな。部長たちと遊ぶ機会はこれからあまりないだろうし。


「じゃあ、行きます!」


 陽春が言った。


「うん、じゃあ、場所とかは後で連絡するね」


「はい!」


 陽春は嬉しそうだ。三上部長、雪乃先輩とはしばらく三人で部活をやった間柄だしな。

 立夏さんと冬美さんが一緒なのは気がかりだけど……


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