第158話 頓写会
俺は比較的近くに住んでいるので
「こんなに人が多いんだねえ」
「だな。俺たちぐらいの年代が多いな」
中高生のグループがとにかく多い。それにカップルも。
「うぅ、浴衣着たかった。ウチ、制服だよ」
「まあ、制服もちらほら居るから」
しばらく歩くとさらに人が増えてきた。これはまずいな。俺は陽春の手を握った。
「陽春、マジで、はぐれないようにしないと」
「そ、そうだね」
陽春は俺の手をしっかり握ってきた。
しばらく歩くと出店が増えてくる。
「あ、かき氷食べたい!」
「もうちょっと進んでからにしよう。先に進めばもっと店も増えるから」
俺の記憶通り、先に進むとどんどん店も増えていく。焼き鳥、唐揚げ、金魚すくい、射的もあるな。
「あ、綿菓子!」
陽春が綿菓子にすごく惹かれている。だが、並んでいるのは子どもばかりだ。
「陽春、かき氷か綿菓子かどっちかにしておけよ」
「うーん、だったら、かき氷か」
しばらく進むと少し広場になっているところに出た。ここには出店がずらっと並んでいる。
「じゃあ、かき氷!」
陽春は結局、かき氷を買った。暑いので俺も買って一緒に食べる。座れる場所があったのでそこで座って食べていると、陽春が「あ!」と叫ぶ。なんだろう、と見るとそこには男女のカップルが居た。
1人はうちのクラスの委員長の山崎奈美、もう一人はウチのクラスの男子だ。名前は……なんだっけな。
「委員長、お疲れ様です!」
陽春は委員長に敬礼した。なぜか、いつもこうだ。
「あ、陽春ちゃん達も来てたんだ」
山崎さんが陽春に気がつく。
「そうだよ。で、委員長は坂口君と2人?」
そうだ、坂口だ。クラスでは目立たない男子だが……。この2人、仲良かったのか。
「う、うん……」
「まさか付き合ってる?」
「……まあ、そうかな」
「へぇー、そうだったんだ! 全然知らなかった」
俺も知らなかった。
「隠してるから。教室では話さないようにしてるし」
「うわー! 委員長も隅には置けませんなあ」
「みんなには内緒にしておいてね」
「わかった!」
「じゃあね」
2人は去って行った。偶然の遭遇ってあるんだな、と思ったが、本妙寺の参道は幅もそれほど広くないし、時間帯が合ってしまえば簡単に遭遇しそうだ。
ただ、俺たちは部活の帰りでまだそれほど日も落ちていない、夏祭りにしては早い時間だ。委員長たちはもう帰りだったから、みんなに遭遇しないように早い時間に来てたのだろう。不運だったな、委員長と坂口君。
「いやあ、びっくりしたねえ」
「そうだな」
俺たちはかき氷を食べ終わり、本殿への石階段を上っていく。子どもの頃にはこの階段がとても長くてきつかった記憶がある。だが、俺ももう高校生。これぐらいの階段は楽勝……と思っていたのだが、途中で息が切れてきた。
「は、陽春。ちょっと待ってくれ」
陽春は元気に上がっていく。俺は付いていけなくなった。
「和人は運動不足だねえ」
「そ、そうかな。でも、この階段は結構きついぞ」
「まあ、そうだけどね。でも、あそこまででしょ。余裕!」
陽春は軽々と上がっていった。俺は何とか上まで辿り着く。そこには大きな門がある。これを越えると本殿があった。今日はここで大勢の僧侶がお経を上げている。それを横目に俺たちはおみくじを引いた。俺は……小吉か。
「あ、大吉!」
陽春が喜んでいる。
「恋愛運は……『節度を持って交際すべし』。なんか理子みたいなこと書いてある」
「まあ、神様の言うとおりだな」
「仏様だよ、お寺だもん」
「そ、そうだな」
帰りの階段を少し降りたところにお茶屋的なところがある。そこで飲み物をいろいろ売っていた。
「あ、ラムネがある! 飲みたい!」
陽春はラムネの文字に引かれたようだ。俺たちはラムネを買って飲み始めた。
「あれ? 飲めないよ」
ビー玉が飲み口に来て、陽春はラムネが飲めなかった。どうやら、ラムネを飲んだことはないようだ。
「このくぼみの部分を下にするんだよ」
「なるほど、これでビー玉がひっかかるわけか。さすが和人!」
「子どもの頃、ここでよくラムネ買って飲んでたからな」
ラムネを飲み終わると、階段を今度は降りる。
「陽春、暗いから気を付けろよ」
「わかってるって……って、うゎ!」
陽春がバランスを崩した。俺は慌てて陽春を支える。
「危ないぞ」
「和人、ごめん。ありがと……」
なんとか支えられて良かった……ん? この感触……やわらかい。
「和人、えっと……」
「あ、うわぁ! ごめん」
慌てて手を離す。
「まあ、触ってても良かったんだけど……」
「いや、神様も『節度を持って』って言ってるから」
「仏様ね。じゃあ、行こう」
俺たちは慎重に階段を降り、参道を帰り始めた。
「でもよかったなあ」
陽春が言う。
「何が?」
「さっきのこれ」
そう言って陽春が俺の腕を取り、胸を押しつけてくる。
「は、陽春……」
俺は自分の顔が赤くなるのが分かった。
「カップル多いし、このままで行こう!」
陽春がそう言って結局そのまま電車の停留所まで帰ることになった。
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