第157話 夏休みの部活

 翌日は火曜日。夏休み初の部活がある。3年生の課外授業に合わせて、部活が始まるのは午後からだ。家で昼飯を食べて、学校に向かった。夏の移動はとにかく暑い。だが部室はエアコンがあるので快適だ。俺が部室に入ると、既に陽春は来ていた。三上部長と雪乃先輩ももちろん居る。


「あ、和人!」


「陽春、早かったな」


「うん。待ちきれなくて」


 さすが陽春だ。

 しばらくすると、上野さんが来た。


「上野雫、入ります」


「雫ちゃん! あれ? 不知火君は?」


「なんで私が不知火と一緒に来るって思ってるんですか」


「違ったの?」


「当たり前です」


 上野さんが席に着いた。そこに不知火も来た。


「不知火洋介、入ります!」


「お、不知火君、ちゃんと名前言って入ってきて偉いね」


 陽春が言う。


「そうですね、名前言って入らないと切り替えできなくて」


「うんうん、和人もちゃんと言ってよね」


「そ、そうだな」


 名前言って入らなくてもよかったはずだけど、陽春が言うせいですっかりルールみたいになってきた。


 でも、あの2トップは名前言うことはないよな。そう思っていたときだった。


「長崎冬美、高井立夏、入ります」


 冬美さんの声だ。名前言って入ってきてないのは俺だけかよ。


「みんな揃ったな」


 三上部長が言った。正確には後藤先輩は来ていないが、まあ来ないのだろう。


「今日から夏休みの部活だ。夏休み中には部誌の原稿を完成させないとやばいぞ。気合いを入れて書いていこう」


「はい!」


 返事をしたのは相変わらず陽春だけだった。他の部員はただ頷いた。


「もちろん、時間に余裕があれば本を読んでいてもいいぞ。では、それぞれ始めてくれ」


 俺はとりあえず自分の書評を書き上げようとノートパソコンを出した。


「あれ? 和人、パソコン持ってきたんだ」


「うん、父さんのお下がりで古いやつだけどね。文字を打つだけなら十分だから」


「そっか」


 少し古い型だが、十分動作する。俺はワードを立ち上げて文章の入力を始めた。


 作業を始めてあっという間に二時間が経った。さすがに疲れてくる。


「和人、疲れたよー。肩揉んで」


 陽春が俺に言ってくる。


「仕方ないなあ」


 俺は陽春の後ろに行き肩を揉み出した。


「あー、気持ちいい……」


「陽春先輩、またイチャイチャしてますね。部室ですよ、ここは」


 上野さんが陽春に言う。


「えー、別にイチャイチャじゃないし。雫ちゃんも肩こったんじゃない?」


「まあ、確かに少し肩が重いですけど」


「じゃあ、不知火君に揉んでもらったら?」


「私は別にいいです。不知火も作業があるでしょうし」


「俺は大丈夫だよ。肩揉もうか?」


「……じゃあ、少し」


「よし!」


 不知火が上野さんの肩を揉み出した。うーむ、これはかなりの進歩では。


「ちょっと、あなたたち、部室なんだからイチャイチャしない!」


 今度は冬美さんが俺たちと上野さん達に言う。


「イチャイチャじゃないです」


 上野さんが言った。


「ふうん、じゃあ、写真撮っていい?」


「だ、ダメです! 不知火もういいから」


「う、うん」


 不知火は席に戻っていった。


「陽春ちゃんもイチャイチャじゃないの?」


 今度は立夏さんがすごい目つきでにらむ。


「違うよ、肩こったから……」


 陽春が言う。


「あー、私も肩こったわ」


 立夏さんが言った。


「じゃあ、ウチが揉むね」


 陽春が立夏さんの席に行く。


「陽春ちゃんじゃ力弱いでしょ」


「ううん、ウチ、握力強いから。ほら」


「痛! ちょっと、優しくしてよ」


「ごめん、ごめん。これぐらいでどう?」


「あー、いいわねえ。陽春ちゃん、上手いね……って、そういうことじゃないんだけど」


「え、どういうこと?」


「分かってるくせに。ちょっとぐらい和人君貸してくれてもいいのに」


「ダメだって」


「陽春ちゃんのケチ!」


「ケチじゃない!」


 最近はこの言い合いが多くなってきたな。


◇◇◇


 部活が終わり、帰ろうとするときに立夏さんが言った。


「陽春ちゃん達も頓写会とんしゃえ行くの?」


「とんしゃえ? あ、それって夏祭りみたいなやつ?」


 そういえば、今日は本妙寺ほんみょうじで開かれる頓写会とんしゃえか。

 俺は今頃思い出した。


 加藤清正をまつる本妙寺で開かれる頓写会とんしゃえは毎年7月23日に行われ、出店でみせが多数出る。だが、熊本地震で本妙寺が大きな被害を受け、復興したら今度は新型コロナで出店でみせは中止に。昨年、8年ぶりに出店でみせが出る通常の頓写会とんしゃえが開催されたのだ。


「そうよ。私たちは何人かのグループで行くけど、陽春ちゃん達は行かないの?」


「だって知らなかったもん! 今日あるなんて」


 陽春が怒って俺を見る。本妙寺はうちの近くだ。俺が言っても良かったか。


「ごめん、陽春。今まで行ってなかったからすっかり忘れてた」


「もう! じゃあ、今から行こう」


「え、今から?」


「うん。部活帰りに直行すればいいでしょ」


「まあ、いいけど……」


「雫ちゃんは行く?」


 陽春が上野さんに聞く。


「夏祭りですか……人、多いですか?」


「かなり多いね」


 俺は昨年行ってないが、その人の多さはニュースにもなっていた。


「じゃあ、やめときます」


「そっか……じゃあ、和人と二人だね!」


「まあ、そうだな」


「そういえば、部長達は2人で行ったんですよね? 去年」


「そうだな。でも、今年は受験生だから自粛だ」


「そうですか」


「あれ? 去年のこの時期はまだ交際隠していたんじゃ……」


「秘密で行ったのよ」


 雪乃さんが言う。でも、なぜ陽春は知ってるんだろう。


「でも、目撃報告多数でやばかったんだよ、後藤先輩いらついてたし」


 陽春が言う。なるほど。本妙寺の参道は広くないし、時間帯次第ではすぐに見つかってしまうな。

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