第156話 バイト初日
今日は夏休みのバイト初日。午前中から達樹と一緒にじいちゃんの実家に来ている。やる作業は果物の収穫だ。早速教えてもらって、はさみで果物を切り落として収穫する作業を行った。淡々と一人で出来るこのような作業は俺に向いているな。
お昼になり、じいちゃんの家で一緒にご飯を食べる。
「和人たちがバイトに来てくれて助かるなあ」
じいちゃんは気さくな人だ。
「でも、今までしなかったのに急にバイト始めたのは何か欲しいものがあるのかい?」
「そういうわけじゃないけど……」
彼女が出来てお金が必要になったとは言いづらい。と思ったら達樹が口を出してきた。
「あー、こいつ彼女ができたんですよ」
「ほう? 彼女が! それでお金が必要になったか」
「……まあね、そんなところ。達樹もそうだから」
俺は達樹を見て言う。
「はい、俺も和人も彼女が出来て何かと入り用で……」
「そうか、そうか、それはいいことだな。今度彼女も連れてきなさい、ご馳走するから」
「ありがとうございます」
午後3時でバイトを終え、俺たちはバスに乗り街中に向かった。今日は陽春も初バイト。笹川さんと同じファミレスだ。俺と達樹はお互いの彼女を家に送るためにファミレスに向かう。
だが、やはりバイトで二人とも疲れている。バスではぐっすり寝てしまったがなんとかファミレスに着いた。
「いらっしゃいませ、あ、和人!」
陽春がファミレスの制服姿で俺たちを出迎えた。もちろん、俺も陽春のこの姿は初めてだ。
達樹が俺より先に感想を言う。
「おー! これは新鮮!」
「……陽春、似合ってるな」
やはり、かわいい。
「そう? 良かった! まだちょっと恥ずかしいけどね」
俺たちは席についてすぐにドリアを注文した。
「晩ご飯あるんじゃないの?」
陽春が言う。
「でも、腹減っちゃって……」
「大変だった?」
「最初だし少しね」
「じゃあ、食べて食べて」
結局俺たちはあっさりと食べてしまった。まだ食べ足りないが家では晩飯も用意されているはずだし、このぐらいにしておく。あとは陽春達がバイトを終わるのを待つだけだ。陽春と笹川さんが働いているところをぼんやり眺めていた。
「さすがに疲れたな」
達樹がぼそっと言う。
「そうだな……」
「これ、夏休み中ずっと出来るかな」
「やるしかないだろ。それともバイトの時間減らすか?」
陽春を送らないという選択肢は俺にはなかった。
「いや、そういうわけにはいかないし。まあ、月曜と水曜だけだし頑張るか」
「そうだな」
やがて、陽春たちのバイトが終わる時間になった。俺たちも店の外に出て待つ。
「おまたせ!」
陽春と笹川さんが私服になってやってきた。
「どこか寄ってく?」
「えっと……」
寄りたいのは山々だが、疲れもひどい。
「達樹も櫻井も疲れてるみたいよ。今日は帰ろうか」
笹川さんが助け船を出してくれた。
「そっか、初日だもんね」
陽春も気遣ってくれた。だが、よく考えたら陽春もバイト初日のはずだ。
「陽春は疲れてないのか?」
「ウチ? ウチはテニスで鍛えてたからねえ。このぐらいは大丈夫!」
陽春は体力があるようだ。それに気疲れしないタイプだしな。
「……そ、そうか」
「和人は疲れてるねえ。うちでちょっと寝てく?」
「出来ればお願いしたい」
「わかった! じゃあ、行こう!」
達樹たちと電車の停留所で別れ、俺たちは陽春の家に向かった。電車では寝ていたが、電車を降りてから陽春の家まで歩いたことでまた疲れてしまう。
「たっだいまー! 和人連れてきたよ!」
「はいはい、お帰り」
陽春のお母さんへの挨拶もそこそこに陽春の部屋に向かった。
「じゃあ、和人、ここで寝て」
陽春が自分のベッドに俺を寝せようとする。
「いや、陽春のベッドなんて悪いよ。床で寝るから」
「いいって。彼氏なんだから。一緒に寝ようか?」
「それは……だめだ。節度を持たないと」
「そう言うと思ったけど。とりあえず寝て」
「わ、わかった」
結局、陽春のベッドに寝ることにする。陽春の匂いに包まれて心地よい。陽春が俺の体をぽん、ぽんと叩いている。俺はあっという間に寝てしまった。
気がついたら外が少し暗いような。もう結構寝てしまったようだ。
「あ、起きた?」
机に座っていた陽春が俺が起きたことに気がつく。
「うん、ごめん。すっかり寝ちゃってて」
「いいよ。ご飯食べてく?」
「いや、うちにも用意されてるだろうから」
「そっか、そうだね」
陽春が近づいてきて俺の髪をほぐす。
「寝癖がついてるよ」
「そ、そうか」
「もう帰る?」
「うん」
「じゃあ、最後に」
そう言って抱きしめてきて、目をつぶる。俺は陽春にキスをした。
「……和人、お疲れ様」
「陽春もな。バイト疲れただろうに何か迷惑掛けたな」
「迷惑じゃないよ。和人の寝顔をしっかり見れたしね。写真もいただいたから」
「お前、撮ったのか」
「えへへ、ごちそうさま」
「まったく……誰にも見せるなよ」
「え、雫ちゃんにも?」
「当たり前だ」
「せっかく自慢しようと思ったのに……」
誰にも見せないように釘を刺し、俺は帰った。一眠りしたことで疲れはかなり取れていた。
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