第155話 感想会

 陽春が泣き止んだところで、俺たちは映画館からその下にあるモスバーガーに移動した。


 4人で注文を待っている間に俺は不知火に小声で言った。


「お前なあ、好きな子と二人で居るときに他の女子が可愛いなんて言ったらダメだぞ」


「え、女子と言っても陽春先輩の友達の話ですよ」


「誰だろうがダメだ。考えてみろ。上野さんが誰かのことをかっこいいって言ってたらどう思う?」


「それは……むかつきますね」


「だろ。上野さんもお前が森さんを可愛いって言ったから怒ったんだ」


「なるほど……って、俺、結構やばいこと言ってるんじゃ……」


「だから、謝れと言ったんだ」


 すると、急に不知火が大声を出した。


「上野さん、ごめん!」


 驚いて上野さんが不知火を振り返る。


「何、急に。もうわかったから。頭上げて」


「俺、何も分かって無くて……」


「もういいから」


「でも、俺……そうだ、モスおごるよ」


「まあ、それならもらうけど」


 とりあえず上野さんの機嫌は大丈夫のようだ。


 4人で注文し席に座る。話は今見た映画『ルックバック』の話になった。いろいろな感想が出る。そして、上野さんが言った。


「陽春先輩も絵を描いてるから、人ごとじゃない感じですか?」


「そうだねえ。ウチはたいした絵じゃないし、本格的にやってるとも言えないレベルだけど、やっぱり刺さるかなあ」


 そうか、陽春は今回の部誌ではイラストと表紙まで担当する絵描きだもんな。


「雫ちゃんだってクリエイターなんだから結構刺さったでしょ?」


「え、上野さんもクリエイターなの?」


 俺は思わず聞いてしまう。


「和人、何言ってるの。雫ちゃんは小説書いてるでしょ」


 陽春が俺に言った。そうか、上野さんは今回の部誌に小説を書いている。ということはクリエイターと言えるよな。


「まあ一応、クリエイターですかね」


 上野さんは笑った。


「そういう意味では『ルックバック』の最初の方、見てて恐くなりました。私が書いた小説も先輩達が書いたものと比べられるわけで。つまんないって思われたら結構きついですね……」


「そうだよねえ、ウチも自分のイラストはいいんだけど表紙がねえ。去年の方がよかったって言われたらつらいなあ」


「ですね。文化祭で部誌を売るの楽しみではあるんですけど、結構恐いです」


 そうか、二人はそういうプレッシャーと戦いながら創作をしていたんだな。すごい、と素直に思った。俺は自分が書いた作品がけなされたら耐えられない。やはりクリエイターになるのは無理だ。しかし、それでもルックバックを見た後は、俺も何か作ってみたいという気持ちにさせられたのも確かだった。


「不知火はどう思った?」


 上野さんが聞く。


「うーん、自分はクリエイターとかじゃないですけど、何かに頑張るという意味では野球には頑張ってたんで、この映画は結構共感できましたね」


「そっか、不知火君は怪我しちゃったんだもんね」


 陽春が言う。


「はい。自分は野球はやれなくなっちゃいましたけど、他のことに頑張らないとって思いました」


「うぅ……不知火君……」


 陽春が、また涙腺があふれ出してきた。


「陽春先輩、またですか」


 上野さんがあきれたように言う。


「だって……不知火君、野球できなくなっちゃって……」


「それはもう吹っ切れてますから気にしないでください。そのおかげでこうして先輩達や上野さんとも仲良く出来てますし。新しい世界を知って刺激が多いです」


「そう? ならいいけど……」


「今年は無理ですけど来年の文化祭に小説を書くのが今の目標です」


 不知火は言った。


「うんうん、頑張ろうね」


 陽春は少し復活したようだった。


「櫻井先輩は今まで挫折とかありました?」


 上野さんが聞く。挫折か。俺は今まで全力で何かをやったりという経験があまりないからなあ。


「挫折とは少し違うかもしれないけど、友達はなかなか出来なかったな」


「あー、言ってましたね。陰キャぼっちだったって」


「うん。高2になって達樹や陽春のおかげでいろいろ交流を持てるようになったけど」


「うぅ……和人……ぼっちで頑張ったね……」


 陽春がまた涙腺に来ている。ぼっち生活、そんなに泣かれるほどつらいものじゃなかったんだけどな。


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