第145話 お泊まり
私、浜辺陽春はお姉ちゃんの車に乗り、理子と雫ちゃんとショッピングモールに来ていた。
だが、午後から理子はバイト。なので、ショッピングモールを出て私たちは亜紀の車に乗り、理子のバイト先の近くまで行く。理子が降りた後は、私の家に帰る。雫ちゃんも一緒だ。
「じゃあ、ごゆっくり」
「ありがとうございます」
私の部屋に入った雫ちゃんはもうすっかりくつろいでいる。一度、うちには泊まってるし、この部屋も慣れたものだ。
「早速見ましょうか」
「そうだね」
雫ちゃんが今日うちに来た理由はアニメ「
「でも、なんで急に『氷菓』見たくなったの?」
「それは部室で陽春先輩が楽しそうに話してたからです。だから見てみようかなって」
「不知火君と話してたんだけどね」
「まあ、そうですけど……」
「不知火君と『氷菓』の話、したくなったんだ」
私はニヤリとして雫ちゃんを見た。
「そんなんじゃないですし。そういうこと言うならもういいです」
「あ-、ごめんごめん、冗談だから。さ、見よう!」
「もう……陽春先輩、意地悪ですね」
「いつもウチが雫ちゃんにいじめられてるからねえ」
「まあ、それは否定しませんけど」
雫ちゃんもニヤリと笑った。機嫌は直ったようだ。
早速、サブスクで再生する。
第一話から順に見て行った。
◇◇◇
途中でおやつを食べたりしていると夕方までに全てを見ることはできなかった。
「雫ちゃん、ご飯食べていく?」
お母さんが聞きに来た。
「その予定は無かったんですけど……」
「いいじゃん、食べていけば」
私は言った。
「じゃあ、ちょっと親に電話してみます」
「もう泊まったら?」
今日は日曜だが明日は海の日で祝日だ。
「……いいんですか?」
「ウチはもちろんオッケー!」
「じゃあ、そうします」
結局、雫ちゃんはまたうちに泊まることになった。
夜になり、「氷菓」の続きを全て見た。
「うーん、面白かったですね。私が小説で読んでないところもあったし」
「そうなんだ。小説と結構違った?」
「そんなことはないですけど……『
『千反田える』は氷菓のヒロインだ。
「そう?」
「はい。私が小説で読んでるイメージとちょっと違いましたね」
「どんな風に?」
「結構あざとかったですね」
「あざとい……」
「はい、あざとい話し方であんまり好きじゃないです」
「そうなんだ。ウチは好きだけどなあ、かわいくて。あざといのは雫ちゃん嫌いなんだ」
「ですね。なので、陽春先輩が櫻井先輩にあざとく迫ってるときにはちょっとイラっとします」
「えー! ウチ、そんなことしてないよ!」
「陽春先輩は無自覚だからいいですけど」
「そ、そうなんだ……気を付けるね」
「別にいいですって。じゃあ、寝ますか?」
「だね」
雫ちゃんは私の部屋の床に布団を敷いて寝る。ベッドを譲ろうとしたけど断られた。
部屋の電気を消し、しばらく経って私は雫ちゃんに話しかけた。
「雫ちゃんは不知火君に素直にならないの?」
「なんですか? いつも素直ですけど」
「でも、この間、付き合ってもいいって言ってたでしょ?」
この間、雫ちゃんがうちに泊まったとき、ポロっと言ったことを私は覚えていた。
「……その話します? あのときは私もちょっと精神的に参ってたし……」
「本音じゃないの?」
「本音じゃないですから。私は誰とも付き合わないです。あ、櫻井先輩は別ですけど」
「なんでよ!」
思わず起きあがって言う。
「うるさいですから……陽春先輩が愛想尽かされない限り大丈夫ですよ」
「もう……あ、和人にメッセージ送ってない」
私は慌ててスマホを見る。すると、和人からメッセージが来ていた。
「明日、和人がうちに来るって」
「へぇー、じゃあ、すぐ帰らないでしばらく居ますね」
「むぅ。和人にちょっかい出さないでよ」
「さっきいじめられたので、その分は取り返します」
「もう! 不知火君に話すからね!」
「……すみません」
「よし。ふっふっふっ」
「……冗談で言ってるとは思いますけど、絶対話さないでくださいね」
あら、雫ちゃん、結構マジになってる?
思わず雫ちゃんを見ると少し顔が赤いような。かわいい……
「言わないから。ほんとは雫ちゃんが不知火君好きとか」
「違いますから。ほんっとに意地悪ですね」
「ごめんごめん。ま、そういうことは本人が言わないとね」
「……明日、仕返ししますから」
「和人はウチの味方だもん!」
「楽しみですね」
この間泊まったときより本音を見せてくれないけど、それだけ元気になったって事だろうな。その方がウチも嬉しい。
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