第144話 ショッピングモール

 日曜日の朝。私、浜辺陽春はまべはるはショッピングモールに来ていた。彼氏の櫻井和人さくらいかずとは今日は親の実家に里帰りに行っている。熊本は七月の旧暦でお盆を行う家も多く、和人のところもそうだった。


 暇になった私はお姉ちゃんの亜紀の車に乗せてもらい、親友の笹川理子ささかわりこに後輩の上野雫うえのしずくと一緒に4人で郊外のイオンにいる。ここはイオンモール熊本だが、なぜかみんな「クレア」と呼んでいるショッピングモールだ。


「やっぱり人多いですね」


 雫ちゃんが言う。雫ちゃんは人混みが苦手だ。


「だねえ。ちゃちゃっと買い物済ましちゃおう」


「でも、日曜にこういうところ来るの久しぶりなので、亜紀さんには感謝してます」


「雫ちゃんは感謝の言葉がちゃんと言えて偉いねえ。どこかの先輩とは大違いだ」


 姉の亜紀が私に皮肉を言う。


「お姉ちゃんにはいつも感謝してるよーだ」


「あー、そう。嬉しいねえ」


「私もありがとうございます」


 理子も亜紀に言った。


「理子ちゃんはいつも礼儀正しいねえ」


「まあ、体育会系でしたので」


「今は部活やってないんだっけ?」


「はい、バイトばっかりで」


「でも、偉いねえ。陽春は遊んでばっかりだから」


「ウチは部活やってるし!」


「あー、そうだったねえ。でも運動しないと太るぞー。海、行くんなら気を付けないと」


「うぅ、それは確かに。朝から走ろうかな……」


 実は今日はみんなで水着を買うのが目的だ。今、みんなで海に行く計画を立てている。



 早速、水着売り場に行くとみんなそれぞれ自分の水着を選んだ。


「……雫ちゃん、さすがにそれは子どもっぽくない?」


 ワンピース型の水着を選んでいる雫ちゃんに言う。


「そうですかね。でも、実際子ども体型ですし、露出が多いのとか着ても……」


「男子はそういうの好きだよ?」


「別に男子に見せるために着るわけじゃないですし」


「不知火君は雫ちゃんのビキニ姿とかみたいと思うけどなあ」


「不知火にそんな姿見せたくないですし。これにします」


 しまった、不知火君の名前を出したことで雫ちゃんはかたくなにビキニを拒むようになってしまった。


「陽春先輩は櫻井先輩にビキニ姿見せたいんですよね」


「うーん、まあね。でも、セパレートタイプかな」


 私はやや露出が控えめの黄色いセパレートタイプの水着を選んでいた。


「陽春もお子様体型なのにワンピースじゃ無くていいの?」


 姉の亜紀が言う。


「ウチはお子様体型じゃないし! 絶対これにする!」


「はいはい。あ、理子ちゃんはそれ似合いそう」


「ですかね……これにします」


 理子は緑系のビキニだ。スタイルが良いから似合いそうだ。


「よし、じゃあ会計行くか」


 亜紀と一緒に連れ立ってレジに行き、目的の買い物は終わった。


◇◇◇


 日曜お昼のフードコートはとにかく人が多い。いろいろな食べ物が魅力的だったけど、太るとかさっき言われたので、ここはヘルシーにサブウェイのサンドイッチ。野菜がたっぷりだ。結局みんなダイエットを気にしてるのかサブウェイを選んだ。


「でも、いいんですか? 当日に車を出してもらって」


 雫ちゃんが亜紀に言う。みんなで海に行く計画では亜紀が車を運転することになっている。


「いいのいいの、私も暇だし。それに、彼氏のお兄さん来るんでしょ?」


 亜紀が理子に言った。


「はい、達樹のお兄さんも暇してるみたいで。ちなみに彼女は居ないそうですよ」


「大学生?」


「はい、3年生です」


「同学年かぁ。どんな人だろうなあ」


 今回の計画では亜紀の車と小林達樹の兄の車の二台で行く予定だ。亜紀は小林達樹の兄との出会いが楽しみらしい。


「で、今回は全部で8人だっけ?」


 亜紀が私に確認する。


「うん。ウチと和人、理子と彼氏。あと、雫ちゃんと不知火しらぬい君って言う後輩」


「ふうん。でも、2台に別れるなら私の車に陽春たち、もう一台に理子ちゃんたち。となると雫ちゃんとその不知火君は別々に乗ることになるけど」


「私は別にいいですよ。不知火と同じ車じゃなくて」


「え、いいの?」


 亜紀が雫ちゃんに確認する。


「はい、別に彼氏じゃないですし」


「でも、狙ってるんじゃないの?」


「狙ってないですよ。逆に狙われてはいますけど」


「へぇー。でも、狙ってないのに海連れて行くんだ」


「私は呼んでないんですけど、陽春先輩が連れて行くって言ってて……」


「確かにウチがそう言ったんだけどね。でも、まだ話してないし。もしかしたら来ないかも」


 そう。この計画はまだ不知火君には伝えてなかった。日程も決まってないし。


「そっか。だったらいいけど」


「まあ雫ちゃんと不知火君はちょっと複雑な関係だからお姉ちゃんは気にしないで」


「そうなんだ……」


「別に複雑じゃないですけどね。一方的に好かれてるだけです」


 雫ちゃんが言う。


「でも雫ちゃんはそれは嫌じゃないってこと?」


 亜紀が聞く。


「嫌じゃないですけど付き合う気は無いですよ」


「へぇ、そうなんだ」


「お姉ちゃん! 気にしないでって言ったでしょ!」


「う、うん。わかった。いろいろありそうだね」


 お姉ちゃんも納得してくれたようだ。


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