第143話 嫉妬

 金曜日。今日も部活だ。俺たちが既に部室に来て作業を開始していると、一年生たちが来た。


「上野雫、不知火洋介、入ります」


 上野さんは席についてタブレットの用意を始めた。不知火は席に鞄を置くと、俺の隣の陽春のところにやってきた。


「陽春先輩! 『氷菓』のアニメ、見ました!」


「おー! どうだった?」


 陽春が嬉しそうに聞く。


「めちゃくちゃ面白かったです! 小説で読んだ部分も面白かったですし、まだ読んでないところも見てしまいました」


「ウチも全部見たよ! どの話が良かった?」


「そうですね……どれもよかったですけど……」


 陽春と不知火は氷菓の内容についてずっと話していた。陽春は楽しそうだ。うーん、不知火とはいえ、俺の彼女とずっと話している男子というのは何か不愉快だな……


 そんなことを思っていると上野さんが小声で話しかけてきた。


(陽春先輩、楽しそうですね)


(……そうだな)


(櫻井先輩、もしかして、いてます?)


(別に……不知火相手にいても仕方ないだろ)


(そうですか、陽春先輩すごく笑顔ですけど)


 俺は思わず陽春を見てしまう。確かにいい笑顔だ。俺は思わず目をそらした。


 すると、立夏さんが俺に言った。


「和人君も大変ね」


「……何が?」


「私なら和人君だけ、だけどな」


「陽春だってそうだよ」


「なら、いいけど……」


 その会話が聞こえたのか、陽春が振り向く。


「ん? ウチのこと話してた?」


「別に何でも無いよ」


 俺は言った。


「そっか……あれ? 和人、怒ってる? どうしたの?」


「別に怒ってないから」


「和人……」


 陽春が俺を見てくる。俺は何も言わなかった。


「雫ちゃん、和人どうしちゃったの?」


「陽春先輩が構ってくれないから、すねちゃったみたいですね」


「そうなの?」


 陽春が俺に言う。


「別にそんなんじゃないから」


「和人……ごめん! つい夢中になっちゃって」


「いいよ」


「和人……」


 そんな俺を見て冬美さんが言った。


「和人君って嫉妬しっと深いんだ。意外……」


「違うから」


 俺は慌てて否定する。


嫉妬しっと?」


 陽春が驚いて言う。


「え……話してたの、不知火君だよ? 雫ちゃんラブだよ?」


「わかってるけど……」


「ふーん、それなのに嫉妬してるんだ。ウチのこと大好きだね!」


「う、うるさいなあ」


「その言葉が出るってことはほんとだったんだ。ふふ、かわいい」


 陽春が俺の頭をなで出す。俺は黙ってなでられていた。


「あら、素直になでられて、なんかかわいいわね」


 冬美さんが言う。


「ねえ、立夏。え!?」


 冬美さんが立夏さんを見て驚く。立夏さんはすごい目つきで俺と陽春をにらみつけていた。

 そして陽春に言う。


「陽春ちゃん、ここ部室よ!」


「あ、ごめん」


 陽春は慌てて手を引っ込めた。


「まったく、場をわきまえなさい!」


「ごめん、立夏さん……」


「ば、罰として私が和人君の頭をなでるから!」


 そう言って俺に近づいてくる。だが、冬美さんに後ろから羽交い締めにされ、止められていた。


「立夏、落ち着いて……」


「……あら、私……ごめん、頭に血が上ってたわ」


「はぁ。小説書いて発散させなさい」


「そ、そうね。少しエンディングを書き換えようかしら」


 立夏さんは自分の小説に集中し始めた。


(なんか最近、また立夏さんの和人への想い、高まってない?)


 陽春が小声で聞く。


(そうかも……)


(小説書いて想いが再燃してるのかも)


(うーむ、それは困ったな)


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