第142話 プレゼント
「誕生日の青年! 部活の時間だよ!」
「だな、行くか」
放課後、俺の席に来た陽春と、それに立夏さん、冬美さんと部室に向かう。
「陽春、立夏、冬美、誕生日の和人、入ります!」
わざわざ誕生日をつけて陽春は言った。
俺たちが部室に入ると、立夏さんがなにやら紙袋を俺に渡してきた。
「はい、和人君。誕生日のプレゼント」
「立夏さん、ありがとう。開けてみていい?」
「いいわよ」
それは高級菓子店のクッキー詰め合わせだった。
「うわあ! 美味しそう!」
陽春が騒ぐ。
「これ、みんなで食べていいか?」
俺は立夏さんに聞いてみた。
「いいわよ、私も食べたいし」
「じゃあ、陽春も食べるか?」
「うん! やったあ!」
「ただし!」
立夏さんが珍しく大きな声を出した。
「私が和人君に食べさせることを陽春ちゃんが許可してくれたらね」
「う……」
陽春は迷っているようだ。嫌だけど、どうしてもクッキーを食べたいらしい。
「……1枚だけだよ」
「ありがとう、陽春ちゃん」
えっと……俺の意思は関係無いようだな。
立夏さんは早速クッキーを取って俺に食べさせようとする。
「はい、和人君。あーん」
俺は仕方なく口を開けた。そこに立夏さんがクッキーをいれる。
「和人君、どう?」
「……美味しい」
「よかった!」
「ウチも! はい、あーん」
陽春が言うので俺はまた口を開けた。そこに陽春がクッキーをいれる。うん、美味いな。飲み物が欲しいけど。
そのとき、外から声がした。
「上野雫、不知火洋介、入ります」
上野さんたちが入ってきた。
「櫻井先輩、私からの誕生日プレゼントはこれです」
上野さんは、映画のムビチケを2枚差し出した。
「ルックバック?」
聞いたことがない映画だった。
「はい。櫻井先輩と映画を見に行って楽しかったのでムビチケにしました」
「ウチの分もあるの? ありがとう!」
陽春が言う。確かに2枚あるな。
「いえ、櫻井先輩と私の分ですけど」
「は? なんで雫ちゃんと二人で行く前提なのよ!」
「ダメですか?」
「ダメに決まってるでしょ!」
「……たぶんそう言うと思って、ちゃんと買ってきてありますよ」
上野さんはさらにムビチケを2枚だした。
「わー、ありがとう!」
陽春が二枚とも受け取った。そして、うち1枚を不知火に渡す。
「え!?」
不知火が言う。
「あれ? 違った?」
陽春が上野さんを見た。
「……陽春先輩が不知火を誘ったなら仕方ありませんね。不知火、行く?」
「う、うん! 是非!」
「じゃあ、4人でまた行きましょう」
「上野さん、ありがとう!」
不知火が泣きそうになって言う。
「プッ! だからその顔やめてって」
上野さんはまた不知火の顔がツボだったらしく、笑いがなかなか止まらなかった。
「さてと、最後はウチだね」
陽春が言う。
「ん? 昼にお弁当のプレゼントもらったぞ」
「もちろん、あれだけじゃないよ」
そう言うと陽春はホワイトボードの後ろに行った。そしてなにやら箱を持ってくる。
「じゃん!」
「ポロシャツか」
プレゼントは青いポロシャツだった。
「前、和人がウチに着せたい衣服を買ってもらったから、今度は逆! ウチが和人に来てもらいたい服だよ!」
「ありがとう、陽春」
「……あんまり喜んでないでしょ」
正直言えばあまり服に興味は無いけど……
「そ、そんなことないから」
「櫻井先輩、服に興味ないって感じですし。着てもらえないかもですね」
上野さんが言った。
「えー! 和人が着てるとこみたい!」
「じゃあ、今度着てくるな」
「今すぐ!」
「え?」
「裏で着替えられるから」
そう言って陽春が俺をホワイトボードの裏に連れて行く。
「マジで着替えるのか?」
「うん」
そう言って陽春が俺の服を脱がせ出した。
「ちょ、ちょっと。自分で脱ぐから」
「そう? じゃあ、待ってるね」
陽春はテーブルの方に戻った。
そこでの会話が少し聞こえてくる。
「陽春先輩、櫻井先輩の服脱がせようとしたんですか?」
「え、彼女だし別にいいでしょ」
「部室でさすがにそれはちょっと」
「そうね、陽春ちゃん。やりすぎよ。うらやましい」
「そっか。部室だもんね……ん? 誰かうらやましいって言わなかった?」
俺は着替え終わったのでテーブルの方に戻った。
「あ、和人! よく似合ってる!」
「櫻井先輩、なかなかいいですね」
「和人君、素敵。陽春ちゃん、さすがね」
「あ、ありがとう、みんな」
今日は俺の誕生日だし、みんな気を使ってるのだろう。
「じゃあ、着替えてくる」
「えー! 今日はもうずっとそれで居てよ。部長! いいですよね」
陽春が言う。
「別にいいぞ」
「そ、そうですか。では……」
俺は陽春が贈ってくれた服でこの日の部活は過ごした。立夏さんがいつもよりやたら俺を見てくるような気がした。
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