第141話 誕生日の朝

 木曜日。今日は7月11日。俺の誕生日だ。だが、昨日も陽春は何も言ってこなかったし、メッセージも送ってこなかった。まあ、忘れているのだろう。俺も一度ぽろっと言っただけだから別に忘れられても普通だし。そう言いながらも少し寂しい気がしながら学校に向かった。


 学校に到着するといつもは遅い陽春がもう来ていた。


「おはよう、ウチの彼氏!」


「おはよう、俺の彼女。今日は早いな」


「あー、うん。ちょっと早く目が覚めちゃって」


「そうか」


「うん!」


 陽春はそう言ってニコニコと俺を見つめている。

 俺はとりあえず自分の席に座った。


「和人……」


「ん? なんだ?」


「な、なんでもない!」


「そうか」


 陽春は自分の席に戻っていった。


◇◇◇


 昼休み、俺たちはいつものように部室に向かおうとした。


「和人、ちょっと待って」


 陽春が言う。


「どうした?」


「う、うん。この問題、よくわかんなくて」


 前の授業で出た問題を指している。


「それ、さっき先生が解説してたろ」


「うん、でもよくわかんなくて」


「そうか」


 俺が教えているうちに、笹川さんと達樹はもう部室に行ったようだ。

 数分経って、俺は陽春に教えることが出来た。


「よし、じゃあ行こうか!」


 陽春が言って俺たちは部室に向かった。


「陽春、和人、入ります!」


 陽春が大声で言って扉を開けた。すると、クラッカーの音が鳴り響いた。


「櫻井和人、お誕生日おめでとう!」


 部室には三上部長、雪乃先輩、笹川さん、達樹のいつものメンバーに加え、上野さん、不知火、それに立夏さんと冬美さんまで居た。


「サプライズ! どうだった?」


 陽春が言う。


「すっかり忘れてるのかと思ったよ。ありがとう。みんな来てくれてたのか」


 俺はいつもは昼休みの部室に居ない立夏さん、冬美さん、一年生たちまで居てくれたことが嬉しかった。


「そうだぞ、1年のアイドルに2年の2トップまでお前をお祝いするために待ってたんだからな」


 達樹が言った。不知火には触れなかったようだ。


「みんな、ほんとにありがとう」


「私と冬美はすぐ教室に帰るけどね。だから最初に言わせて。お誕生日おめでとう、和人君」


「ありがとう、立夏さん」


「プレゼントは、わ・た・し」


「は?」


「ちょっと立夏さん!」


 陽春が言う。


「冗談よ。部活で渡すからまた後でね」


 立夏さんと冬美さんは部室を出て行った。


「先輩、お誕生日おめでとうございます。私もすぐ行かないといけないので。プレゼントは部活で渡しますね」


「ありがとう、上野さん」


「失礼します」


 上野さんと不知火も教室に帰っていった。


「じゃあ、昼休みはウチのプレゼントだけだね」


 陽春が言う。


「何かあるのか?」


「うん……まだ、あんまり自信ないんだけどね」


 そう言ってお弁当箱を出した。


「え?」


「作ってきたよ」


「嬉しいけど……俺も弁当あるぞ」


「交換しよ」


「なるほど。じゃあ、陽春の手作り弁当、ありがたく食べさせてもらうな」


「うん!」


 俺は陽春の作ったお弁当箱を開けた。そこには唐揚げやらウィンナーやら卵焼きやら、男子が好きそうな物が並んでいる。


「これはうまそうだな!」


「でしょ! 雫ちゃんのように可愛くはないけど……」


「でも、俺はこっちが好みだな」


 俺は食べ始める。


「うん、美味いぞ!」


 味も濃くて俺は好きだ。


「よかったー」


 陽春が言った。


「陽春もなんだかんだで体育会系だからねえ。エネルギーが付く男子が好きなお弁当みたいなのが得意だよね」


 笹川さんが言う。

 俺は気になって陽春に聞いた。


「陽春、そういうお弁当を他の男子に作ったりは……」


「してないから! これが初めて」


「そ、そうか」


「和人は意外にやきもち焼きだよなあ」


 達樹が言う。

 そうなんだろうか。自分ではよく分からなかった。

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