第134話 陽春を送って
8人で食事に行った帰り道。俺は陽春を送っていく。
「和人、ちょっと気になることがあったんだけど」
「ん? なんだ?」
俺が告白したぐらいの、人の気配が無くなった道で陽春が言った。
「冬美さんの好きな人。もしかして……」
陽春の言いたいことは分かった。姉の雪乃さんの恋人、つまり三上部長か。俺たちは部長カップルと冬美さんが一緒に居たところを見ている。あのときの冬美さんは見たことが無いほどの笑顔だった。
「そんなことはないと思うけど」
「だって、叶わぬ恋とか言ってたし。ライバルも強力って」
「そうだけど、他のやつの場合だってあるだろ」
「そ、そうだよね……うん。考えすぎか」
「きっとそうだよ」
そんなことを話していると、陽春の家に着いた。
「和人、ちょっと寄ってかない? まだ時間も早いし」
時間は午後4時前ぐらいだ。
「そうだな。たまには寄っていくか」
「うん!」
たまには、といっても勉強会で来たばかりだからまだ一週間も経っていないけどな。
「たっだいまー!」
「……お邪魔します」
「あれ、誰も居ないか」
「そうみたいだな」
家には誰も居なかった。普段は陽春のお母さんが居るから出かけているのだろう。
「和人……久しぶりに部屋来ない?」
「そう……だな」
俺は久しぶりに陽春の部屋に入った。
「飲み物持ってくるね」
陽春が部屋を出て行く。陽春の部屋に来たのはまだ2回目だ。あまり前来たときと変わってないな。
「はい、どうぞ」
「ありがとう」
陽春が出してくれた麦茶を飲む。
「和人……その……まだ試験の結果は出てないんだけど」
「まあ、陽春の頑張りからいくと赤点は回避出来たんじゃないか」
「ウチもそう思うんだよね。だから……その……」
あのときの続きか。赤点を回避できたら俺はあのときの続きをしたいと言っていた。
「ごめん、陽春に言わせてばかりで。ほんとは俺が言わないとダメだよな」
「和人……」
「陽春、あのときの続き、していいか?」
「うん……お願い」
俺は陽春に近づいた。陽春はもう目を閉じている。俺はそっと陽春を抱きしめた。
「和人……」
陽春も抱き返してくる。俺は陽春を思う気持ちがすごく高ぶってきた。もう何も恐くない。
そして……俺は陽春にそっと口づけした。顔を話すと陽春が目を開ける。
「……よくわかんなかった」
「え?」
み、短すぎたかな。
「もう一回、お願い」
「わ、わかった」
俺は今度はしっかりと口づけした。
「うん……キスってすごいね!」
陽春が言う。
「そ、そうだな……」
「よし、これで理子たちに追いついたぞ!」
やっぱり、それ気にしてたのか。
「……和人、もう一回いい?」
陽春が言う。
「何回でもいいぞ」
そう言って口づけしようとしたときだった。
「陽春、居るの?」
扉が突然開いた。
「お母さん!」
俺たちは慌てて離れた。
「あら、お邪魔しましたー」
陽春のお母さんは慌てて去って行った。
「……見られちゃったかも」
「かもな、後で謝っておいた方がいいかな」
「なんで謝るのよ。恋人同士だからキスぐらいいいでしょ。別にセ……最後までしてるわけじゃ無いんだし」
「そ、そうだな」
しばらくすると遠くから声が聞こえてきた。
「和人君、今日はご飯食べていく?」
「どうする?」
「いや、今日は帰るよ」
「うん。わかった……今日は帰るって!」
陽春が大声で返した。なるほど、こうやって大声が鍛えられたのか。
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