第135話 会いたくなって
翌日の土曜日。俺は家でゆっくり過ごす予定だったが、陽春からメッセージが来た。
陽春『和人、会いたくなっちゃった』
シンプルだな。でも、こう言われて嬉しくないはずがない。
和人『じゃあ会おう。どこに行こうか?』
陽春『和人の家行きたい』
和人『別にいいけど親が居るぞ』
陽春『ちゃんと挨拶したいし』
和人『分かった』
親に言ったところ、陽春は遅めに来て晩ご飯を食べていくことになった。
3時頃、俺は陽春を迎えに新町電停に来た。
待っていると陽春が電車を降りてくる。今日の服はTシャツにこの間俺が買ったスカートだ。
「陽春、その服で来たんだな」
「うん。今日は和人だけだし。和人の好きな服がいいでしょ」
「うん、嬉しいよ」
「良かった」
家はマンションの4階だ。扉を開けると、陽春は大声で言った。
「お、お邪魔します!」
するとうちの父と母が出てくる。
「陽春ちゃん。いらっしゃい」
「か、和人君の彼女をやらせてもらっています、浜辺陽春です! よろしくお願いします!」
陽春がお辞儀をした。
「ちょっと俺の部屋に行ってるから。急に扉開けたりしないように」
「はいはい」
俺は親に釘を刺して自分の部屋に陽春を入れた。
「久しぶりだねえ、和人の部屋」
「そうだな。前はゲームをしたよな」
「ボードゲームしたねえ。またやる?」
「やってもいいけど……陽春はそのために来たのか?」
「そうじゃないけど……」
「じゃあ、なんで突然家に来るって言ったのかな?」
「分かってるくせに! 和人の意地悪……」
「ごめん、ごめん。陽春……」
俺は陽春を見つめた。
「和人……」
俺たちは昨日に続いて再び抱き合いキスをした。
「これダメだね。ずっとしたくなっちゃう」
「そ、そうだな、笹川さんじゃないけど節度を持たないとな」
「うん……じゃあ、ボードゲームでもする?」
「そうだな」
俺は「57577」という短歌を作るカードゲームを取り出した。
「あれ? これ、確かハンズで見たような」
「うん、実は買ってみたんだ」
陽春が欲しそうに見ていたことを覚えていたので、内緒で入手していた。本当は何かのプレゼントで渡したかったのが、陽春の誕生日まではだいぶあるし、今出してもいいだろう。
「よし、やろう!」
このゲームではカードに5文字か7文字の文章が書かれている。それらを組み合わせて五・七・五・七・七で短歌を作るゲームだ。最初に配られたカードから2回交換できる。書かれている文章は「放課後に」「制服のまま」のような青春系から「いとエモし」「ムーンウォークで」のようなギャグ系までいろいろある。
最初に5枚ずつ配り、陽春から先にカードの交換を行った。
「じゃあ、これ」
陽春は「こっそりと」のカードを取る。
俺は「恋のミラクル」のカードを取った。
「和人、恋愛の短歌作ってるの?」
「まあ、そうだな」
2回目、陽春は「黄昏時に」のカードを取る。陽春も恋愛の短歌っぽいな。
俺は「ラブチャンス」のカードを取った。
「よし、勝負だな。どちらが良かったかを正直に言って勝敗を付けよう」
本当は多数決だが、2人なので仕方ない。
「じゃあ、まず和人が出して」
「わかった」
俺は5枚のカードを順に出した。
「ラブチャンス
メンバー募集
姫君と
恋のミラクル
君と出会った」
「へぇー、いいじゃん!……って、これってウチとのこと?」
「そうだな」
陽春が文芸部のメンバーを増やしたいと思っているときに出会ったのが俺だった。
俺にとっては恋愛のチャンスだったし、そこで陽春と付き合えるなんて恋のミラクルに違いない。
「すごい! 何か嬉しい! ……『姫君』ってウチ?」
「まあ、そうだな……」
「えへへ、姫君かー。そんな風に思ってたんだ」
陽春は嬉しそうだった。
「じゃあ、次は陽春の短歌だな」
「うん!」
そう言って陽春は自分のカードを一枚ずつ出していった。
「こっそりと
ペリー来航
グッドです
黄昏時に
世界征服」
「……いったい、これは何を言いたい短歌なんだ?」
「だから、こっそりやってきたペリーが世界征服する短歌」
「陽春……」
「だって、いいカードが来なかったんだもん! ウチもエモい短歌作りたかったのに!」
まあ、このゲーム、カードが来ないとどうしようもないしな。
「うぅ……和人の勝ちでいいよ。じゃあ、ご褒美ね」
そう言って陽春は俺にキスをした。
「これってもしかして陽春にとってもご褒美になってないか?」
「そ、そうだね……」
「陽春……」
「和人……」
俺たちは再び抱き合い、キスをした。すると、そこで母親の声が聞こえた。
「そろそろご飯の準備するわよ」
「「はーい」」
俺も陽春も返事をした。今日は陽春はご飯の準備で手伝いたいと言っていたのだ。
俺たちはリビングに移動した。
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