第122話 理子怒る

 昼休みになり、いつものように俺たちは部室に向かう。だが、この時間まで笹川さんはかなり不機嫌だった。俺たちが朝、楓さんに会いに行ったことがバレているのかもしれない。


 そして、席に着くと笹川さんは言った。


「じゃあ、話してもらおうかな、達樹」


「実は立夏さんから楓が落ち込んでいるって聞いたんだ」


「楓が? 嘘でしょ」


「俺も信じられなくて、和人と二人で様子を見に行ったんだよ」


「で、どうだった?」


「確かに落ち込んでいるようだったな。おそらく、お前に負けた感じがして悔しいんだろう」


「だったら、達樹を振らなけりゃいいのにね」


「俺のことは大して好きじゃ無かったと思うぜ。恋人らしいことは何もしてなかったし。でも、お前に彼氏が出来て、その彼氏が俺なのは嫌なんだろうな」


「まあ、気持ちは分かるけどね。私の元カレが楓と付き合ったら確かに嫌だもん。ブチ切れるかも」


 笹川さんが言った。そういえば、笹川さんも去年まで彼氏が居たって言ってたな。


「だから、俺と言うよりは理子との関係だろうな」


「そうだね。でも、落ち込みが怒りに変わったら恐いから、注意が必要だね」


「だな」


「でも……」


「でも?」


「どんな理由があれ、私に黙って楓に会いに行ったってことよね」


「和人も一緒なんだぞ」


「だからまだいいけど、黙って楓に会いに行くなんてありえないからね」


「ご、ごめん!」


「私が達樹に黙って元カレに会いに行ったらどうする? 陽春と一緒だったとしても、よ」


「た、確かにちょっと嫌かも」


「ちょっとだけなの!?」


「ご、ごめん! ほんとはすごく嫌だよ」


「あーあ、もう。ほんとに元カレに会いに行っちゃおうかしら」


「やめてくれ!」


「私、怒ってるんだけど」


「ごめん、埋め合わせするから」


「そう・・・・・・・じゃあ、そうね。勉強会の時、みんなにアイス買ってきてもらおうかな」


「わ、わかった! それぐらいなら――」


「それぐらい!? 高級アイスにしてよね!」


「わ、わかった……」


 笹川さんの迫力に達樹はなすすべが無いようだった。

 こういうとき、陽春はいつも黙って弁当食べてるよな。笹川さんが怒ったときの対処をよく知っているようだ。


 だが、少し気になることがあって、俺は地雷かもしれないがつい聞いてしまった。


「笹川さんの元カレが誰かって、陽春は知っているのか?」


「うん。知ってるよ。親しくはないけど」


「陽春、言わなくていいからね」


 笹川さんが釘を刺す。


「言わないよ」


「もしかして達樹にも隠してる?」


 俺は聞いた。


「余計な心配掛けたくないから。元カレは接触してくる気配は無いし。知らない方が幸せって事もあるでしょ」


 笹川さんは言った。


「俺も気にしてないから。和人も気にするな」


 達樹が俺に言った。まあ、達樹が良ければいいか。


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