第121話 楓の様子

 次の日の朝。俺と達樹が席に着くと、そこに立夏さんと冬美さんが来た。


「おはよう、立夏さん、冬美さん」


「おはよう。実は平川楓ひらかわかえでさんの話なんだけど……」


「楓? なにかあったのか?」


 立夏さんの話に達樹が食いついた。

 達樹の元カノ・平川楓はいろいろなことをこれまでやってきていたが、笹川さんと達樹が付き合いだしてからは何もしかけてこず、不気味に思っていたところだ。


「昨日、楓のクラスの友達から聞いたんだけど、最近落ち込んでて元気が無いらしいのよね」


「元気が無い……」


「うん、もしかしたら、あなたたちが付き合いだしたからじゃない?」


 そう達樹に言う。


「あいつが、そんな玉かよ」


「平川さんだって女子だし。好きな人が他の人と付き合いだしたら落ち込むわよ」


「楓は俺のことをそこまで意識してないと思うぞ。意識してるのは理子の方だろうな」


 達樹が言った。


「そうなんだ。でも、何してくるか分からないから気を付けた方がいいと思って……」


「そうだな。教えてくれてありがとう」


 俺は立夏さんに言った。


 立夏さんと冬美さんが去ると達樹が言った。


「楓が落ち込むかねえ」


 どうも、信じられないようだ。


「本当なのかな」


 俺は思わず言った。


「俺はそんなことはないと思うけどな。もしくは演技か。確かめてみたいな・・・・・・」


 確かめる?


「どうやって?」


「ちょっと見に行ってみるか」


「今からか?」


 まだHRまで少し時間はあるが・・・・・・


「うん。お前も来い」


「なんでだよ」


「俺が一人で楓に会いに行ったなんて理子が聞いたらどう思われるか」


「確かにそうだな……」


「だから頼むよ」


「分かったよ」


 俺たちは教室を出て楓さんのクラスに向かった。教室の外から中をうかがう。すると、楓さんは机に突っ伏して寝ているようだった。


「うーむ、確かに楓があんななのは珍しいな」


「そうなのか?」


「うん。あいつは基本元気なやつだから」


「じゃあ、落ち込んでいるのは本当か」


「そうかもしれんが、わからんな」


「あれ? 達樹じゃん」


 そのとき、突然クラスの知らない女子が声を掛けてきた。達樹を知っている子のようだ。卓球部か何かだろうか。


「よ、よう」


「なに? 楓に用事? あ、別れたんだっけ」


「そうだよ。もう別れて新しい彼女も居るんだから」


「なんだ、だったら何しに――」


 そこに楓さんが来た。


「達樹、何しに来たの」


「あ、いやあ、楓が落ち込んでるって聞いたから」


「はあ? 落ち込んでないかないし。別にあんた達が付き合おうが私には関係無いからね」


「そ、そうか」


「そうよ、心配なんてしないで!」


 さっきまで寝ていたからかわからないが、少し涙目だな。


「わ、わかった。じゃあな」


「うん……」


 俺たちは自分のクラスに戻った。

 達樹がぼそっと言う。


「ありゃ、確かに落ち込んでるな」


「そうなのか」


「ああ。あいつのことだから、理子に負けた感じがして嫌だったんだろう」


「そういうことか。だからといって、お前、楓さんを慰めに行ったりしないだろうな」


「するわけないだろ。俺は理子一筋だ」


「だったらいいが・・・・・・」


 俺たちは席に着いた。


 すると、後ろの席の笹川さんが言う。


「どこ行ってたの?」


「あ、いやあ、ちょっと……」


「ふうん、言えないんだ」


「ちゃんと後で言うから。ここではアレだし」


「わかった。昼休みね」


 笹川さんの目が恐い。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る