第119話 進捗報告

 部活の終了時間が迫ってきて、三上部長が言った。


「では、そろそろ進捗報告をするぞ」


 みんなの手が止まり、部長を見た。


「じゃあ、まずは小説組から行くか。俺はSF小説を書いているが、設定はだいたい出来てて、プロットが8割ぐらいの出来だ。本文はまだ書いていない。以上だな」


「え、それぐらいのペースで間に合うんですか?」


 上野さんが驚いて言った。


「夏休みと合宿で時間があるからな。そこで仕上げる。それまでにとにかくプロットでしっかりしたものを作る予定だ」


「……プロットって何ですか?」


 不知火が小声で俺に聞いた。


「小説の大まかなあらすじだな。最初に流れを決めておくんだ」


「なるほど……」


「では、次に雪乃だ」


「はい。私はミステリー小説ね。今はプロットが6割ぐらいかな。ミステリーだから、あっと言わせる仕掛けを考えたくて……いろいろ考えてるけど納得いってないの。7月中ぐらいにはプロットを完成させたいわ」


「それぐらいのペースでいいんですね……」


 上野さんが言った。


「でも、人によるわよ。あまり小説を書いたことが無い人はまず書くことが大事だからね」


「そうですか……」


「じゃあ、次は立夏さんだな」


「はい。私は恋愛小説です。キャラ設定とプロットは決まっているのでもう書き始めているのですが、なにぶん初めてなので文章の表現に苦戦して何度も書き直しています。主人公が恋する相手の魅力がなかなか文章で伝わりにくくて……」


 そう言って立夏さんは俺を見た。陽春が「ん?」という顔で俺と立夏さんを見ている。


「でも、ヒントはあるので頑張ります」


「ヒント、ね……」


 冬美さんがぽつんと言った。


「よし、じゃあ、小説組の最後は上野さんだな」


「はい。私はホラー小説を書いているのですが、設定とプロットはだいたい決まったのでもう書き始めています。でも、最初の惨殺シーンが少しグロすぎたので、どう抑えるかを思案中です」


 ……やばそうな小説だな。


「よし。じゃあ、あとは書評組だな。まずは櫻井」


 俺の番か。


「はい。自分はアシモフの『ファウンデーション』をテーマにしました。書評の軸は戦後日本の復興との比較です。後書きに書いてあったことをヒントにしました。ただ、そこまで決めた段階で、本文は全然です」


「さすが桜井先輩、アカデミックですね」


 上野さんが言う。


「そこまで決まれば後は書くだけだな。じゃあ、次は冬美さん」


「はい。私はハーレクインの魅力を伝えようかと思って、一冊だけではなくて全体について解説を書きたいと思っています。ハーレクインの特徴とかを今はリストアップしています」


 俺もハーレクインには詳しくないので勉強になりそうだ。ハーレクインを読み始めた陽春にも役に立つだろうな。と思い、陽春を見るとなぜか顔を赤くしていた。


「・・・・・・なるほど。それは面白そうだな。いい企画だ。じゃあ、次は不知火」


「はい! 僕は『氷菓』の書評を書くことにしました。いろいろ書くことを考えてたのですが……先輩二人の書くことを聞いて正直、一から考え直さないとダメだと思いましたので、また考え直します!」


「ということはまだ書く内容は決まっていないということか」


「はい、すみません・・・・・・」


「まあ、時間はあるし、テーマが決まっただけでもいいだろう。氷菓を読み直して見るのもいいぞ


「ですね。せっかくだし、アニメも見てみたいと思っています」


「うん、それもいいな。最後にイラスト。浜辺」


「はい! ウチは『デデデデ』のイラストを描くことに決めて、いくつかラフを描きました。それを『デデデデ』を見たことがある和人とか雫ちゃんとか、不知火君とかに見てもらって、どれを仕上げるかを決めたいと思ってます」


「うーん、それは『デデデデ』を見たことがある人じゃ無くてもいいんじゃないか。むしろ、知らない人が見て魅力がある人の方がいいかもしれない」


「確かにそれがいいですね!」


「それと、今頃なんだが、浜辺に仕事をもう一つ頼みたい」


 三上部長が言った。


「え、なんですか?」


「表紙だよ。表紙も浜辺が描いてもらえるか?」


「え! ウチですか!」


「うん。去年は美術部に書いてもらったんだが、絵を描ける部員が居るならそっちのほうがいいんじゃないかって、雪乃とも話してね。テーマは文芸部的なものが伝わる絵なら何でもいいだろう」


「わ、わかりました! 考えます!」


 陽春は嬉しそうだった。


「よし、じゃあ、これで部活動は一旦休止だな。ここから一週間は期末テスト対策に励むように」


「「はい!」」


 陽春と上野さんが返事をし、あとの部員はみんな頷いた。


「それと……」


 雪乃先輩が話しだした。


「今回も赤点を取ったら部活に参加できないからね」


「え! 夏休みもですか?」


 陽春が聞く。


「そうよ」


「えー! いやだー!」


 陽春が大声を出した。


「だから、そうならないように頑張ればいいでしょ」


「そ、そうですよね……うぅ……和人……」


 陽春が俺を見てくる。


「また、勉強会するか」


「うん、お願い」


 みんなでやる勉強会もまた考えないといけないな。


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