第117話 上野さんの誕生日
そして月曜日。今日は放課後に図書委員があるが、上野さんの誕生日で部活もあるので、朝を担当する他の委員と代わってもらった。なので、俺と陽春は朝早くやってきて、図書委員を行った。
昼休み。俺たちはいつものように部室に来ていた。今日は上野さんの誕生日だ。さすがに上野さんと不知火は昼にはここに来ないだろうと思っていたが不知火が突然やってきた。
「先輩、ピンチです!」
「どうした?」
「男子たちが上野さんに高価なプレゼントを贈ってますよ。やっぱり、あのペンダントが良かったんでは……」
「へぇー、すごいね、雫ちゃん」
達樹が言う。
「雫ちゃん、それ受け取ってる?」
陽春が聞く。
「いえ、受け取ってはいないようですけど……」
「やっぱり。急にそんなプレゼントされても引くよ。ケーキがいいって」
「そ、そうですかね……」
「うん、大丈夫。サプライズだし」
陽春と不知火は話し合って放課後にケーキをサプライズで今日プレゼントにすることにしていた。部長も承諾済みだ。
「ですね。俺、放課後にひとっ走り行ってきます」
「うん、頑張って」
◇◇◇
そして、放課後になる。事前に立夏さんと冬美さんにもサプライズのことを話しておいた。
「それにしても不知火君も
部室に向かう途中、冬美さんが言った。
「あら、報われないとは限らないでしょ」
立夏さんが反論する。
「いや、無いでしょ。雫ちゃんは1年生では最高級の高嶺の花よ。不知火は悪くないけど、ちょっとね……」
「でも、近くに居ることを許してるってことは気がありそうじゃない?」
「無いと思うけど」
立夏さんは不知火の味方なんだな。冬美さんは不知火に厳しい。
「陽春、和人、立夏、冬美、入ります!」
陽春がいつものように言って部室に入った。
「今日はサプライズするんだよね」
雪乃先輩が言う。
「はい、言わないようにお願いしますね」
「わかったわ」
陽春はクロミちゃんぬいぐるみが入った袋をホワイトボードの後ろに隠した。
そこに声が響いた。
「上野雫、入ります」
上野さんが入ってきた。
「雫ちゃん、誕生日おめでとう!」
陽春が真っ先に言う。
「「「おめでとう!」」」
俺たちはみんな言った。
「あ、ありがとうございます」
「そういえば、今日は一人?」
雪乃先輩がわざとらしく言った。
「あ、はい。不知火は何か用事があるようで後から来るそうです」
「あら、そう」
「まあ、何か企んでるんでしょうけどね。バレバレなんですよ」
上野さんが言う。さすがにバレるか。
「そういえば、雫ちゃん、高価なプレゼントもらってたんだって?」
陽春が言う。
「もらってませんから。そういう物は何一つ受け取ってませんよ」
「やっぱり……そうだよね」
「はい。不知火がこの後、そういうのを持ってこないか不安ですね……」
「じゃあ、何を持ってきたら嬉しい?」
「そうですね……こういう場ですから、みんなで食べられるケーキとかですかね」
「だよね!」
思わず満面の笑顔で陽春が言ってしまう。陽春……
「……何か怪しいですね」
上野さんが周囲を見回した。
「え?」
「今の陽春先輩の発言で皆さんの様子がおかしくなりましたし」
「そ、そうかな?」
そこに不知火が入ってきた。
「遅くなりました! 上野さん、誕生日おめでとう!」
そう言ってケーキを出した。
「……やっぱり」
「え?」
「不知火君、ごめん。ちょっとバレちゃってた」
「えー!」
「まあ、陽春先輩がサプライズをするのは無理ですね。でも、ケーキは素直に嬉しいです。ありがとうございます」
上野さんが陽春にお礼を言う。
「違う違う、買ってきたのは不知火君だから。ウチは一円も出してないよ」
「あ、そうなんですか。てっきり、陽春先輩からかと」
「ウチのは別にあるから」
陽春はホワイトボードの後ろからクロミちゃんぬいぐるみを持ってきた。
「はい!」
「うわあ、すごい!」
上野さんも嬉しそうにぬいぐるみに抱きついた。
「ありがとうございます。もしかしてクレーンゲームで陽春先輩が取ったやつですか?」
「そうだよ。お金は和人だけど」
「ありがとうございます、櫻井先輩」
「俺はいいよ、それより……」
俺は不知火を見る。
「あ、もちろん。不知火、ありがとう。喜んでいただくわ」
上野さんは不知火を見て言った。
「上野さん……うぅ……」
不知火は涙ぐんでいる。
「泣くことは無いでしょ。さ、みんなで食べましょう」
「うん、食べよう!」
陽春が一番に言った。
みんなで食べるケーキは美味しかった。上野さんも不知火も笑顔だった。
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