第115話 和人のSF
翌日の金曜日。いつもは部活が無いが、今日はある。
「ウチの彼氏! 今日も部活だからね!」
陽春が来た。
「わかってるって。ちょっと待ってくれよ……よし、行くか」
俺は大きなバッグを持った。
「それ、何が入ってるの?」
立夏さんが聞く。
「本だよ。部室の本棚に空きがあるから俺の持っているSFを置いておこうと思って持ってきたんだ」
「そうなんだ」
「うん、不知火にも読ませようと思ってね」
俺たちは部室の前まで来た。陽春が大声を出す。
「陽春、和人、立夏、冬美、入ります!」
どうやら名前のみがデフォールトになったようだ。
「お、櫻井、持ってきたみたいだな」
「はい、定番だけですけど」
俺は早速、本棚に行って本を並べ始めた。そこに声がする。
「上野雫、不知火洋介、入ります」
1年生二人が入ってきた。本を並べているところに2人が来た。
「櫻井先輩、イーガン持ってきたんですか?」
「うん、何冊かね。はい」
俺はグレッグ・イーガンの代表作とも言える『順列都市』を不知火に渡した。
「これですか」
「うん、面白いから読んでみて」
「無理だと思ったらギブアップするのよ」
上野さんが言う。
「わかりました! チャレンジしてみます!」
早速、不知火は『順列都市』を読み始めた。イーガンの作品はいわゆるハードSF。その中でもかなりの難易度だから大丈夫かな。
「他に何を持ってきたんですか?」
上野さんが聞く。
「全部SFだよ。中国SFの『三体』全シリーズ、コニー・ウィリスのタイムリープ物、『ハイペリオン』シリーズと言った定番ばっかりだけどね」
「ハイペリオンですか、私も読んだことがあります。最初のやつだけですけど。殺人マシーンが最高ですよね」
ハイペリオンはSFだけど作中にはホラー回もあり、それを上野さんは気に入ってるようだ。あれは結構えぐい。
「……2巻からも面白いよ。是非読んでみて」
「そうですね……でも、実はまだ『航路』も読み終わって無くて」
「え? そうなの?」
かなり前に読み始めたやつだ。先輩達のお気に入りの本。
「試験期間に入ったりしたんで途中で止まってます」
「そうか、じゃあ、先に『航路』だな」
「はい、でも先に小説も書かないといけないですよね」
「そうだな……でも少しは読む時間にあててもいいんじゃないかな」
「そうですかね。では、まずちょっと『航路』を読んでからにしますね」
そう言って上野さんは『航路』を読みはじめた。
俺も書評を書き始めることにする。テーマはアシモフの「ファウンデーション」シリーズにすることに決めた。しかし、何に焦点を当てるか難しい。俺が悩んでいると、不知火が声を上げた。
「すみません、俺には無理でした」
あっさりイーガンの『順列都市』を読むのをあきらめたようだ。
「やっぱりね。難しいでしょ」
上野さんがなぜか勝ち誇ったように言う。
「うん、全然頭に入ってこなかった」
「櫻井先輩はこれが面白いって言うのよ」
「すごいですね、やっぱり」
「そうか? 三上部長も読んでると思うけど」
そう思い、三上部長を見る。
「そうだな……俺は読んでるけどそんなに好きな方じゃないぞ」
「そうなんですか。てっきりハードSFが好みなのかと」
「そういうわけじゃない。俺はセンス・オブ・ワンダーが感じられれば何でもいいんだ」
「なるほど……」
「センス・オブ・ワンダー?」
不知火が聞く。
「……未知の物に出会った驚きとか、不思議なことにワクワクする気持ちとか、そういう意味で使われる言葉だな。特にSFにとっては重視される魅力だ」
三上部長が説明した。
「はぁ、そうですか。初めて聞く言葉です。上野さんは知ってた?」
「私はもちろん知ってるよ。SFも読むから」
「そうなんだ、さすがだね……」
「まあ、これぐらいは文芸部員として当然知ってなきゃ。ね、陽春先輩」
「え? ああ、そうだね。うん、もちろん知ってるよ。結構アレなやつだよね」
陽春、何か怪しいな……
そこに雪乃先輩が来て不知火に言った。
「もっと読みやすい本を読んだ方がいいわね。いいミステリーがあるわよ」
そう言って、不知火に本を渡した。
「はい」
持ってきたのは米澤穂信の『
「『氷菓』?」
「それ知ってる! アニメにもなったから」
急に陽春が元気になったな。
「古典部シリーズですよね。アニメは見てないですが、何冊か読んでます」
上野さんが言った。俺は読んでないが、学園物のミステリーらしい。
「へぇー、アニメもあるんですね。だったら読んでみようかな。よく分からなかったらアニメ見よう」
そう言って不知火は読み始めた。
あっという間に帰る時間になった。俺は書評の構成をある程度考え終えたので、今日の活動は納得いくものだった。ふと見ると、不知火はまだ『氷菓』を読んでいる。
「不知火、上野さん帰る準備してるぞ」
「あ、もうそんな時間ですか。いやあ、これ面白いですね。夢中になってました」
『氷菓』を不知火は気に入ったようだ。
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