第114話 夏の予定

「そういえば、しずくちゃん。今日、うちのクラスの田中君って野球部の人が雫ちゃんと遊びたいって言ってきたんだけど……」


 陽春はるが上野さんに聞く。


「あ、そういうの全部断ってもらって構いませんので」


「やっぱり。もう断ったよ」


「ありがとうございます」


 上野さんが言った。


「え、陽春ちゃん、田中君とそんな話してたの?」


 立夏りっかさんが陽春に聞く。


「うん、そうなんだよね。だからちょっと困っちゃってて」


「そっか」


「和人がビシっと断ってくれたから良かったけど」


「え、櫻井先輩が断ってくれたんですか?」


 それを聞いて上野さんが俺に聞いてきた。


「まあ、そうだね」


「さすがです。ありがとうございます。また、借りが出来ちゃいましたね」


「借りとかじゃ無いから。気にしないで」


「でも、嬉しいです」


「……それにしても田中君、節操ないわね」


 冬美さんが言う。


「え、そうなの?」


「私にも立夏にも声かけてきてるから」


「そうなんだ」


「二人に断られたから私って何かむかつきますね」


 上野さんが言った。


 まったくだな……。ん? なんか似たようなことがあった気がするが……忘れよう。


 そのとき、急に三上部長が話し出した。


「そういえば、言うのを忘れていたが期末テストが再来週の水曜からだから、文芸部の活動は来週火曜でいったん休みとなる」


「えー! そんな!」


 陽春が言った。もう期末テストが近いのか。


「追い込みの時期だから明日や来週月曜も放課後の部室は開ける予定だ。来たい人は来ていいぞ」


「「はい!」」


 陽春と上野さんだけが返事をした。あとは、頷くだけだ。


「和人は来るよね?」


 陽春が聞く。


「ああ、そうだな」


 よく考えたら部誌の書評で何をテーマに書くかすら決めていなかった。そろそろ決めないと。


「私もいろいろあって、全然小説が進んでないのでもちろん来ます」


 上野さんが言う。


「じゃあ、俺も行きます!」


 当然のように不知火が言った。


「冬美はどうするの?」


 立夏さんが聞く。


「私は立夏次第よ」


「じゃあ、私たちも参加します」


「そうか、じゃあ全員参加だな。明日、月曜、火曜と残り3日しかないから何か成果を出すように。火曜日には進捗しんちょく報告を行おう」


「しんちょく?」


 不知火が聞く。


「進行状況の確認だよ」


 俺が教える。


「なるほど……って、俺、何にも決まってないですよ」


「だったら、火曜までに何か成果を出せ」


 三上部長が言う。


「は、はい! 分かりました」


 不知火も真剣モードに入ったようだ。


 それにしても火曜の部活が終わるとそこから部活禁止の一週間があり、そして期末テスト。その後は数日の授業の後、夏休みになる。夏休みか……俺は部長に聞いてみた。


「部長、夏休みって文芸部の活動はどうなるんですか?」


「そうだな、夏休みは今のところ通常運行だ。つまり、火曜と木曜に活動する」


「なるほど。時間はいつも通りですか?」


「いや、3年生は午前中に課外授業もあるし、その後、すぐ部室は開ける。でも、午前中に誰か来るなら部室を開けておいて構わないぞ」


「わかりました。それだとけっこう時間取れそうですね」


「そうだな。あと、合宿も予定しているぞ」


「え!? どこかに行くんですか?」


 上野さんが聞く。


「残念ながら学校内だ。セミナーハウスを各部で一回だけ合宿に利用できるんだ。まだ日程は決まってないが」


「なんだ、校内ですか」


 上野さんが残念そうだ。


「でも、楽しいよ。みんなでご飯作って食べて。夜中まで遊べるし」


 陽春が言う。


「陽春ちゃんは去年、はしゃいでたもんね」


 雪乃先輩が言った。


「だって、楽しくて。夜中までトランプやってたなあ」


 文芸部の合宿だから部誌を書かないといけないのでは……


「つまり……和人君と泊まれるってことね」


 立夏さんがぽつりと言った。


「ウチも居るからね!」


 陽春が立夏さんに言う。


「分かってるから。でもまたちょっと貸してもらって――」


「ダメだから」


「……けち」


 立夏さんが拗ねたように言った。


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