第113話 プレゼント
放課後になった。今日は木曜、文芸部の部活だ。
「和人君、行きましょう」
珍しく陽春が来る前に立夏さんと冬美さんが来た。
「あれ? 陽春は?」
ふと見ると、何か男子に話しかけられている。なんだあいつ、田中か。野球部のやつだ。俺は慌てて陽春のところに行った。
「陽春、部活行こう」
「あ、和人」
「おう、櫻井。お前からも頼めないか」
田中が俺にも話しかけてきた。
「何が?」
「一年の上野さんだよ。お前ら仲いいから一緒に遊べないかと」
「ダメだ。上野さんはそういうのは行かないから」
「えー! 何でお前が決めるんだよ。本人に聞いてくれよ」
「だったら、自分で聞け。陽春、行こう」
「う、うん……」
俺は陽春の手を取って立夏さんと冬美さんのところに行く。
「さすが、彼氏ね」
冬美さんが言う。
「いいから行こう」
俺たちは教室を出た。今日は陽春が隣を歩く。
「よかったのかな、雫ちゃんに伝えなくて」
陽春が言う。
「上野さんはああいうのは断るに決まってるよ。陽春もそう思うだろ?」
「そうだけど、勝手に断っていいのかな、って思っちゃって」
「いいよ」
「でも、ウチ、断りづらくてなかなか言えなかった。文句言われるのも恐かったし。和人はズバっと言ったね」
「うん。俺は陰キャぼっちだから、空気は読まないんだ」
「なんか、かっこいいね……」
「そうか? 俺がぼっちだった原因だぞ」
「でも、空気を読んで何も出来なくなるよりかっこいいよ」
「陽春がそう思ってくれるなら、こんな性格でも良かったかな」
「うん、大好き!」
陽春が俺の腕に抱きついた。そのまま文芸部の部室まで来る。
「陽春、和人、立夏、冬美、入ります!」
珍しく名前だけを言って陽春は扉を開けた。
すると、そこには三上部長、雪乃先輩だけではなく、一年生の二人ももう来ていた。
「あれ? 久しぶりに陽春先輩が彼女アピールしてますね」
俺の腕に抱きついている陽春を見て、上野さんが言う。
「アピールじゃないから。彼女だし」
「暑くないですか? 湿度も高いですし」
「いいの! 和人の肌はひんやりして気持ちいいんだから」
「え、そうなんですか? ちょっと私も……」
「ダメに決まってるでしょ!」
「そうですか。だったら不知火で我慢しようかな」
「え、俺!?」
「冗談よ」
上野さんが不知火を見てニタっと笑った。前はこういう冗談を言ったときは冷たい顔だったけど、少し柔らかくなったな。
「そういえば、立夏先輩の誕生日はやっぱり立夏なんですか?」
上野さんが聞いた。
「そうよ、5月6日」
「そうなんですね。ゴールデンウィークですね」
「うん。だからあんまり祝ってもらえないのよね」
「冬美先輩はやっぱり冬なんですか?」
「そうよ、1月20日」
「じゃあ、雪乃先輩も冬ですか?」
「そうね、12月22日。その日は熊本では珍しく雪が積もったそうよ」
「なるほど……」
「急に誕生日聞いてどうしたの?」
立夏さんが聞く。
「あー、不知火が私の誕生日に何か用意しようとしてたから、いらないって言ったんです」
「あら、かわいそう」
「いえ、不知火だけじゃなくて、他の人からも断ってて。だって、お返し用意するのも大変じゃないですか」
「まあ、そうね」
「だから、本当に大切な人だけに送ることにしようって話をしてて」
「うん、それがいいわね」
「え? 本当に大切な人?」
不知火が上野さんに聞き返す。
「そうよ。そういう人だけに送るようにしましょう」
「そ、そうだね。うん!」
不知火が急に明るくなった。確か、昼休みに上野さんは恋人だけ送ろうって話をしていたような……。大切な人、というのであれば、不知火が上野さんに送っても問題無いことになる。
「上野さん、お昼には恋人だけって言ってなかった?」
俺は気になって聞いてみた。
「あ、はい。そう言ったんですけど、よく考えたらそれだと私が櫻井先輩にプレゼント贈れないんで、嫌だなと」
「なんでよ! ウチの彼氏だから!」
陽春がまた怒って上野さんに言う。
「分かってますから。でもすごくお世話になってるから送りたいなと。陽春先輩にも送るつもりですよ」
「そ、そう? じゃあいいか」
あっさり陽春は受け入れた。
「だったら、一応聞くけど、不知火が上野さんにプレゼント用意してもいいのか?」
俺は気になって聞いてみた。
「いえ、それはいらないです」
「そ、そうなんだ……」
不知火はがっくり頭を下げた。
「……まあ、どうしても私が一番大切だって言うんならもらってあげてもいいですけど」
「え、ほんとに!」
「うん」
「わかった!」
不知火は元気になった。上野さん、やっぱりツンデレだと思う。
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