第112話 誕生日

 木曜日。今日もお昼は俺たち4人で部室に来ていた。三上部長と雪乃先輩も居る。最近は梅雨入りして雨が続いている。晴れても暑いし、当分は屋上に行くことは無いだろう。


 弁当を食べ終わり雑談をしていると、突然、不知火がやってきた。


「先輩、大変です!」


「どうした? 上野さんに何かあったか?」


 不知火のことだから大変だというなら上野さん絡みだろう。


「いえ、上野さんに何かあったわけじゃ無いんですけど、俺、聞いちゃったんです」


「何を?」


「上野さん、来週月曜が誕生日なんです!」


「……」


 俺たちは沈黙した。だから何なんだ。


「で、何が大変なんだ?」


 黙った俺に代わり達樹が聞く。


「だって、何のプレゼントも用意してないんですよ!」


「じゃあ、用意すりゃいいだろ」


「何用意していいか分かりません!」


「はぁ……」


 達樹がため息をついた。


「お前、雫ちゃんのこと好きなんだろ。だったら、何が好きかとか分かるだろうに」


「そ、そうですね。クロミちゃんが好きとか、ホラー系が好きとか、パンケーキが好きとかは知ってますけど」


「だったら、そのあたりを何か用意しろ」


「わ、わかりました! ありがとうございます!」


 不知火が達樹に頭を下げた。


 それにしても誕生日か。確かに「雫」という名前だし、梅雨の時期が誕生日でもおかしくないか。


「まったく……好きな人の誕生日ぐらい把握しとけよ。理子の誕生日は10月5日だよな」


「そうね、達樹は12月12日よね。覚えやすい」


「さすがですね、先輩達は」


 達樹と笹川さんはお互いの誕生日を知っていたのか。まずいな。


「俺、陽春の誕生日知らないな……」


「え、和人、そうなのか? もし過ぎていたらどうするんだよ」


「や、やばい……」


「和人、大丈夫だよ、ウチの誕生日は3月20日」


 陽春が言った。

 3月か、やっぱり名前の通り、春だったか。


「和人はいつなの?」


「俺は7月11日だ」


「え? へぇー、そうなんだ。ふーん……」


 実は俺の誕生日は結構迫っていた。なんか陽春のそぶりが怪しい。サプライズでもしようとか思っているのでは……。


 そこに外から声が聞こえた。


「上野雫、入ります」


 上野さんが入ってきた。


「あ、雫ちゃん! お弁当ありがとう!」


「どうでした?」


「ものすごく感動した! あれってウチだよね!」


「わかりました?」


「うん、すぐわかったよ!」


 そうだっけ。『誰これ』とか『似てないよね』とか言ってたような……


「わかってもらえてよかったです。頑張ったんですけどなかなか似なくて……」


「そんなことないよ! 感動した!」


 まあ、感動してたのは確かだな。


「昨日は陽春が感動して泣いて大変だったよ」


「そうだったんですね。喜んでもらえて良かったです。味はどうでした?」


「もちろん、最高だったよ……うぅ……思い出したらまた涙が」


「陽春先輩、ほんと涙もろいですよね。でも、私も嬉しいです」


「うぅ……雫ちゃん、ありがとう」


 陽春が泣いているので上野さんは不知火の方を見た。


「ところで、不知火」


「え!?」


 急に上野さんに呼ばれて不知火は驚いている。


「さっきのは何なの? 急に教室飛び出していったけど」


「あー、あれ……えーと」


「言いたくないなら陽春先輩に聞くけど」


「別に言いたくないわけじゃ……上野さんの誕生日を知って、もうすぐだから驚いたんだよ」


「ふーん……不知火のことだから何かプレゼント用意しようと思ってるかもしれないけど何もいらないからね」


「え!?」


「だって、誕生日だからってプレゼント用意してたらキリ無いでしょ、文芸部だけでも8人いるんだし。クラスの友達とか入れたら大変でしょ。だから、プレゼントはいらないって友達にも話してたのよ」


「そ、そっか……」


「まあ、そういうのは恋人とかだけにしておくべきよ」


「そ、そうだね……」


「ちなみに不知火の誕生日はいつなの?」


「俺? 俺は8月20日」


「へぇー、そうなんだ。ふーん……」


 あれ? 陽春が俺の誕生日を聞いたときと反応が同じような……。


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