第111話 陽春へのお弁当
翌日の水曜日の朝。俺が教室に居ると陽春がやってきた。
「2年1組、おっはよう!」
やっぱり大きな声を出す。そして、俺の席に来る。
「おはよう、ウチの彼氏! ってあれ? まだ雫ちゃん来てない?」
教室を見回して陽春が言う。
「おはよう、俺の彼女。うん、まだだよ」
「そっか……今日、楽しみにしてたんだけどな」
今日は上野さんが陽春にお弁当を作ってくる日だ。
「楽しみにしてたんだ」
「うん。雫ちゃん、まだかなあ」
そんなことを言っていると笹川さんが入ってきた。その後ろから上野さんも来ている。
「あ、理子に雫ちゃん、おはよう!」
「おはようございます、陽春先輩、櫻井先輩」
「今日は遅かったね」
「朝から陽春先輩の大声は避けたかったので」
「なんでよ!」
「低血圧なんで勘弁してください。じゃあ、これ渡しますね」
上野さんは巾着袋を渡した。
「わーい、ありがとう!」
「じゃあ、行きますね。感想は明日の部活で」
そう言って上野さんは教室を出て行った。
「何? またお弁当預かったの?」
笹川さんが陽春に聞く。
「ううん、これウチの」
「え? 陽春の?」
「うん。今度はウチに作ってきてくれたんだ」
「へぇー……何か中学の頃、思い出すね」
「中学?」
俺は笹川さんに聞いた。
「うん。陽春が中学の頃、テニス部の後輩女子からモテモテで、お菓子とかいろいろもらったりしてたから」
「へぇー」
「陽春って男子より女子にモテるタイプだったもんね」
笹川さんが言う。
「少年っぽかったからかなあ」
「髪も短かったし、まだ体も子どもだったからね」
「そうなんだ。その頃の写真って……」
「見せちゃダメ!」
陽春が言う。
「ダメなの?」
「うん。なんか恥ずかしいよ。日焼けもしてたし」
「そうか、陽春が見て欲しくないならいいよ」
俺は言った。
「う、和人、優しいけど……もっと見たいって言ってほしい」
「どっちだよ」
「だって、普通見たがるもんじゃない?」
「まあ、見たいけどさ」
「でも、やっぱりダメ!」
「わかった、わかった」
そんなにか。そう言われると見たくなるな。あとで姉の亜紀さんにお願いして秘かに見せてもらう手もあるな。
◇◇◇
お昼休み、俺たちはいつもの4人で部室に来ていた。
陽春は上野さんからもらったお弁当を取り出す。
「よし、じゃあ開けるよ。せーの!」
陽春がお弁当を開けた。
「わー、かわいい!」
やっぱり、可愛い感じのキャラ弁だ。今日は卵焼きにハンバーグ、ベーコンのアスパラなどが入っている。後はご飯部分のキャラクター。
「これって、何のキャラ?」
俺はキャラクターに詳しくないから陽春に聞いてみた。
「さあ……なんだろう」
「陽春も知らないのか」
わざわざ陽春の知らないキャラのキャラ弁って……。
「私は分かったよ」
笹川さんが言った。
「え、そうなの? 有名?」
「有名じゃ無いけどね。私の大好きなキャラだよ」
「え、理子の好きなキャラなの?」
「うん、あと雫ちゃんも。そして櫻井が一番好きなキャラかな」
「え!?」
なるほど、そういうことか。
「誰なの? 教えてよ」
「あー、特徴捉えてるわね」
雪乃先輩も分かったようだ
「えー、誰これ。こんなキャラ知らないよ!」
「いや、一番よく知ってるだろ」
俺は思わず突っ込んでしまう。
「え?」
「陽春だよ」
そこに描かれていたのは陽春自身だった。
「え、ウチ!?」
陽春がびっくりするぐらい大声を出した。
「そ、そうなんだ……ウチか……う、うぅ……」
昨日の不知火に続き、陽春も泣き出した。
俺は黙って陽春の頭をなでてやる。
「でも、あんまり似てないよね?」
陽春が泣きながら俺に聞いてきた。
「そうか? よく出来てると思うぞ」
「そうかな……うぅ……」
俺はそのキャラ弁を写真に撮った。みんなが写真を撮り出した。
陽春はなかなかそのお弁当を食べることができなかった。
「……美味しい」
泣き始めるとなかなか止まらない陽春は食べ始めた後も泣いていた。
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