第107話 手作り弁当

 月曜の昼休み、俺たち4人は授業が延びたことで少し遅れて部室に向かう。


「浜辺陽春、櫻井和人、笹川理子とその彼氏、入ります!」


 陽春がそう言ってドアを開ける。部室には今日も三上先輩と雪乃先輩が居た。


 俺たちも座り弁当を広げる。いつもと同じ光景。と思ったが今日は少し違っていた。

 笹川さんがお弁当を2つ出したのだ。


「はい」


「おー!」


 達樹が喜んでいる。


「笹川さん、それって……」


 達樹にお弁当を作ってきたのか。


「達樹がどうしてもってうるさくて。別に毎日作るわけじゃ無いからね」


 さすが。ツンデレらしいセリフ。


「ありがとう、理子!」


 達樹は頭が上がらないようだ。


「笹川さん、料理が得意なの?」


 雪乃先輩が聞いた。


「あ、はい。今は私と母の2人暮らしなので料理はよくしています」


「そうなんだ。じゃあ、お弁当もいつも自分で?」


「はい。だから2人分作るのはそんなに苦じゃ無いです」


「へぇー」


「理子はすごいよね。子どもの頃から料理が得意ってわけじゃなくて、高校になってから上手くなったんだから」


 陽春が言う。


「必要に迫られたからよ。褒められることじゃないから」


「陽春も料理は得意だったよな?」


 俺は陽春に聞いた。家に行ったときに料理の手伝いをしていたイメージがあったからだ。


「ウチは手伝いぐらいしかやってないし、そんなに得意じゃないから」


「そうなんだ」


「うん。だから……お弁当はもうちょっと待って」


「別にお弁当作ってきて欲しいってわけじゃないから」


「そう? なら、いいけど」


 そんな話をしていたら、扉の外で声がした。


「上野雫、不知火洋介、入ります」


 上野さんと不知火が入ってきた。


「あ、今日は部長と雪乃先輩居ましたね」


 金曜日は部長達は逃げていたからな。


「雫ちゃん、元通りになったみたいね」


 雪乃先輩が言う。


「あ、はい。もう大丈夫です。いろいろ話しましたし。ね?」


 上野さんは不知火を見る。


「あ、うん……」


 不知火の顔が赤くなってきた。ん? 二人の関係が少し変化したかな。


 そこに達樹が話しかけた。


「雫ちゃん、これ見てよ!」


 自分の弁当を見せる。


「え、何ですか?」


「理子の手作り弁当だ」


「おー、すごいですね! さすが理子先輩。付き合いだしたから早速作ったんですね」


「別にそういうわけじゃないから」


「でも、小林先輩にお弁当作ったの初めてですよね」


「そうだけど」


「……よくそれでツンデレじゃ無いって言ってますね」


「雫ちゃんほどじゃないから」


「私は違いますし。ね?」


 不知火を見て言う。


「ど、どうかな……」


「は? 私がツンデレだって言うの?」


 上野さんが低い声を出した。


「い、いや、違う、かな……」


 不知火が焦って言う。


「でしょ。ま、いいけど。そういえば、陽春先輩は櫻井先輩にお弁当作ったりはしないんですか?」


「……まあ、そのうちね」


「ふーん、料理はあんまり得意じゃないんですね」


「何よ。雫ちゃんだって得意じゃないでしょ」


「私ですか、そうですね。それほどじゃないですけど、自分のお弁当は毎日作ってます」


「え、そうなの!?」


 陽春が驚いている。不知火は知っていたようだ。


「はい。たいしたものじゃないですけどね。櫻井先輩、ご希望なら作ってきましょうか?」


「なんでよ! 人の彼氏にお弁当作ってこないで!」


 陽春が怒り出す。


「それもそうですね。じゃあ、不知火に作ってこようか?」


「え!?」


 まさかの発言に不知火は驚く。でも、これはいつものようにからかってるよな。


「……作ってきてもらえたら、嬉しいけど」


「けど?」


「そんなわけないよね」


「なんでよ。別にいいわよ。櫻井先輩に見てもらいたいから」


「え、いいの!?」


「うん。その代わり、ここで先輩達と食べてよ」


「わ、わかった! じゃあ、明日は上野さんも一緒にここで――」


「私は教室で食べるから一人で行って。お弁当は陽春先輩に渡しておくからね」


「そ、そうなんだ」


「部活の時に先輩達の感想聞かせてくださいね。あ、ちょっと食べてもらってもいいですから」


 自分が作ったお弁当を俺たちに見せたかっただけなのか。

 いや、陽春に見せつけたかったのかもしれないな。

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