第108話 雫の手作りお弁当
翌日、火曜日の朝。俺はいつものように教室に来ていた。まだ、陽春は来ていない。
そこに上野さんがやってきた。
「あ、先輩。おはようございます」
「おはよう、上野さん」
「陽春先輩はまだのようですね」
「もうそろそろかな」
そんな話をしていると陽春が来た。
「おっはようございまーす!」
相変わらず大きな声だ。上野さんが思わず耳を押さえている。
そして、陽春は俺の席に来た。
「おはよう、ウチの彼氏!」
「おはよう、俺の彼女」
「えっと……毎日これやってるんですか?」
上野さんが言う。そうか、陽春の朝の挨拶は初めて見たのか。
「雫ちゃんもおっはよう! そう、毎日やってるよ!」
「陽春先輩、朝からテンション高いですね」
「うん! 元気だよ!」
「私は低血圧なので、朝から陽春先輩はちょっときついですね」
「なんでよ!」
「あ、もう十分です。これ渡したら帰ります」
上野さんが巾着袋を出す。
「お弁当だね」
「はい、昼に不知火に渡してください」
「自分で渡せばいいのに」
「私が渡してるところ見られたら大騒ぎになっちゃいますので。お手数掛けて済みません」
「いいよ、いいよ、渡しておくね」
「先輩達も食べてくださいね。感想は部活で聞きますので」
「オッケー!」
「じゃあ、失礼します」
上野さんは帰っていった。
「上野さん、低血圧なのに、お弁当作って偉いな」
「ほんと、偉いよね。それにわざわざ不知火君に作ってくるなんて何か
うーん、今日のお弁当は単に俺たちに見せたいだけのような……。
◇◇◇
お昼休みになり、俺たちはいつもの4人で部室に来ていた。
俺たちが来た直後に不知火が来た。
「あ、不知火君。ちゃんと預かっているよ」
陽春が上野さんから受け取った弁当を渡す。
「ありがとうございます!」
不知火が頭を下げ、うやうやしく両手で受け取っている。
「宝箱って感じだな」
達樹が言った。
「いや、もう宝ですよ。上野さんが作ったお弁当が食べられるなんて。他のクラスメイトには絶対言えないですね」
不知火の顔がにやついて崩れている。
「うれしそうだな、でもその顔は雫ちゃんには見せない方がいいぞ」
「あ、はい。では……」
不知火は丁寧にお弁当箱を開けた。
「「おー!」」
不知火、達樹が感嘆の声を上げ、陽春と笹川さん、雪乃先輩が「かわいー」と叫んだ。卵焼き、ウィンナー、かぼちゃのベーコン巻き、そのまわりをレタスで囲んでいる。そして、何よりも目を引くのは、ご飯の部分。海苔で何かのキャラクターが描かれている。
「これって、クロミちゃんだよね」
笹川さんが言う。
「うん。不知火君が上野さんにプレゼントしたキャラクターだね」
陽春が言った。
「なるほど。これは愛情を感じますな」
達樹が言う。
「うっ……うぅ……」
気がついたら不知火が泣いていた。
「不知火どうした?」
「上野さんが俺のために作ったのが伝わってきて……俺、感動してます!」
「うん、うん、よかったねえ」
陽春も感動して涙目になっていた。
「食べる前にしっかり写真撮っておけよ」
達樹が言う。
「はい!」
不知火は写真を撮り始めた。陽春と笹川さん、それに雪乃先輩も来て写真を撮っている。
「それにしてもすごいなあ、上野さん。こんなキャラ弁まで作れるのか」
達樹が言う。
「雫ちゃん、普段もキャラ弁持ってきてるの?」
笹川さんが聞いた。
「いえ、俺は見たこと無いですね」
「じゃあ、不知火君のためのスペシャルバージョンか」
笹川さんが言う。
「とりあえず食べたら?」
陽春が言った。それをきいて、不知火がまず卵焼きを食べ始めた。
「どうだ?」
「う、美味いです! うぅ……」
そう言ってまた泣き出した。こいつ、結構涙もろいな。
「私も食べる!」
陽春がかぼちゃのベーコン巻きを奪って食べ始めた。
「あ、美味しい!」
「どれどれ」
達樹や笹川さんも奪い始める。もう、すっかりお弁当の中身が少なくなってきていた。
「おいおい、奪ったら交換で何かあげろよ」
俺は言った。結局、不知火はあまり食べられなかったような気もするが、まあ、本人は感動してそれどころでは無かったようだ。
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