第104話 雫の恋愛事情

「逆に俺も雫ちゃんに聞きたいことあるんだけど」


 達樹がそう言い出した。


「なんでですか、罪人にそんな権利無いですよ」


 上野さんが言う。


「ひどいなあ、罪はこれで償ったはずだけど」


 テーブルにたくさん並んだ料理を指して達樹が言う。


「……まあ、そうですね。じゃあ、何を聞きたいんですか?」


「そりゃ、雫ちゃんの恋愛事情かな」


 達樹が言った。不知火に入れ知恵した達樹は、やっぱり不知火を応援しているのだろう。そのためには、まず上野さんの恋愛事情を知ろうと思ったのか。


「私ですか。そうですね、この際言っておきますけど、高校で誰かと付き合うってことはたぶん無いですね」


 上野さんがそう言うと不知火はがっくりと頭をたれた。


「あー、ごめんね」


 上野さんが不知火を見てそう言った。


「い、いや……気にしないで」


 不知火が言う。


「だって、私って注目されてるじゃないですか。だから、付き合ったらすごく大変なことになるだろうし、それ考えるとうんざりですもん。恋愛する気になれませんね」


 上野さんは言った。なるほど、確かにそういうものかもしれない。


「ただ、櫻井先輩みたいないい人が現れたら、私もリスク背負って付き合うかもしれないですけど」


 そう言って俺を見た。


「そうね、そういう人が居たらいいねえ」


 陽春が上野さんに言う。


「でも、まあ居ないでしょうから、あきらめてます。まあ、櫻井先輩本人が一番いいですけど」


「なんでよ! ウチの彼氏だからね!」


 陽春が早速怒る。上野さん、からかってるな。


「分かってますから。だから、たぶん恋愛しないです」


「ふーん、でも、それってなんか寂しくないか?」


 達樹が聞く。


「別に寂しくないですよ。文芸部のみんなと居るのが楽しいですし……不知火は分かってると思うけど、私、教室と部活では全然違うんですよ」


「え、そうなのか?」


 俺は不知火を見て聞いた。


「はい、教室での上野さんはなんというか、その……もっと、おとなしいですね」


「なるほど……」


「別にキャラ作ってるわけじゃないんですよ。自然にそうなっちゃうんです。自分が上手く出せないっていうか、うわべだけで対応しちゃって……。演劇部とか他の部活でもそうだったんです。でも、文芸部だと、初日から普段の自分になってました」


「そうだったんだ……」


「はい。陽春先輩と話してたとき『あ、ほんとの自分出せてる』って思って。だから、すぐ入ろうって思ったんです」


「そっか。でも、今も普段の自分だよね?」


「はい。陽春先輩といるとなぜか普段の自分になっちゃうんですよね。だから、すごく感謝してます」


「雫ちゃん!」


 陽春が上野さんの手を取って見つめている。陽春はそれだけ親しみやすいって事なんだろうな。あるいは先輩なのに、なめられているか。


「でも、ウチが卒業したらどうするの?」


 陽春が聞いた。確かにそうだ。


「そのときは会いに行きます。近くの大学に進学してくださいね」


 上野さん、陽春の大学も指定しだしたのか。


「うん! わかった! 会おう!」


 陽春はあっさり、了承していた。ということは俺も近くの大学だな。


「たぶん、陽春先輩とは一生の付き合いになる予感があります。ていうか、一生、交流していきたいです」


「うん! 私も!」


 陽春はすごく感動しているようだ。

 

「まあ、陽春先輩に限らず、文芸部の先輩たちとはずっと交流していくと思いますけどね」


 上野さんは俺を見て言った。


「えー! 俺は?」


 達樹が上野さんに言う。


「達樹先輩は、理子先輩と続いてたら交流あるんじゃないですかね。別れたら一生会うことは無いでしょう」


「そ、そんな……って、そうだよな。よし、俺は理子と一生添い遂げる!」


「なんで、こんなところでプロポーズしてるのよ」


「え? 理子!?」


 笹川さんがちょうど料理を持ってきていた。


「うわあ、今のは聞かなかったことに……」


「まあいいけど」


 そう言って笹川さんは去って行った。


「え、今、いいっていったよな?」


 達樹が俺に聞いてくる。


「知らん」


 俺は真面目に答えなかった。

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