第103話 バイトの理由

 俺たち5人は笹川さんがバイトするファミレスに到着した。


「いらっしゃいませ」


「あ、理子先輩……」


 ファミレスの制服を着た笹川さんを上野さんはじっと見た。


「何?」


「新鮮ですね、この格好」


「もう、いいから。5名様でしょうか?」


「あ、理子先輩入れて6名です」


「私は仕事だから。こちらへどうぞ」


 笹川さんが俺たちを席に案内した。


「ご注文決まりましたらお呼びください」


 そういう笹川さんを上野さんはじっと見て言った。


「理子先輩、意外に似合ってますね」


「意外は余計でしょ」


「いえ、私服のイメージがあったもんで」


 笹川さんも陽春と同じく私服はいつもパンツルックでボーイッシュだ。


「だよなあ、理子も可愛い服、絶対似合うと思う」


 達樹が言う。


「うるさいから。ご注文決まりましたらお呼びください」


 そう言って、笹川さんは去って行った。


「さて、いろいろ頼みましょう! 先輩達も不知火もね」


 上野さんはそう言っていろいろ注文しだした。


「ティラミスとプリンは全員分でしょ、あとピザとパスタと飲み物に……」


 いくら安いこのファミレスでもこれは結構な額になるのでは……


「俺は飲み物だけでいいから」


 達樹が言う。


「遠慮しないでください」


 上野さんが言う。


「いや、俺が払うんだから」


「だから遠慮しないでください」


 上野さんはどんどん紙に書いていく。そして、満足したのか、テーブルのボタンを押した。

 すると、笹川さんが注文を取りに来た。


「書いた?」


「お願いします」


 上野さんが紙を差し出す。


「ご注文を確認します。ティラミス5つ、プリンが5つ……」


 全てを言い終えると、疲れたように言った。


「以上でよろしいでしょうか?」


「あと、おふたりのいろいろを聞ける権利もお願いします」


 上野さんが言う。


「いろいろって?」


「普段どんなデートしてるかとか」


「それぐらいはご自由にどうぞ」


 そう言って笹川さんは去って行った。


「じゃあ、小林先輩、教えてください」


「普段ねえ、そんなにデートとかはしてないかな」


「そうなんですか? 付き合ってるんですよね?」


「うん、でも理子はバイトが多いから、バイト帰りを送っていくのがメインかな」


「バイト帰り、ですか。それって週何日ぐらいですか?」


「ほとんどだね」


「え、毎日ですか。そんなに理子先輩バイトしてるんですね」


「そうだねえ」


「でも、何でなんでしょう。そんなにバイトしてるのは……」


 そういえばそうだ。クラスの自己紹介でも趣味はバイトと言っていたが、なんでここまでバイトしているのか、俺も聞いたことは無かった。


「うーん、俺の一存で言っていいかどうか……」

「そうだね……」


 達樹と陽春は理由を知っているようだ。言っていいか迷っている達樹を見て、上野さんは呼び出しボタンを押した。すると、笹川さんが来る。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「理子先輩がバイトしてる理由聞いてもいいですか?」


「別にいいわよ。隠しているわけじゃ無いし。でも、達樹が説明した後、私が補足するから」


 そう言って、笹川さんは去って行った。


「じゃあ、小林先輩、教えてください」


「うーん、そうだな。話すか。……実は理子のご両親が離婚しちゃってね」


「そうなんですか」


「うん、今は母親と二人暮らしだそうだ。それで高校生になってバイトするようになったって言ってた。だからテニスも辞めたんだって」


「そうだったんですね……」


 そこに料理を持って笹川さんが現れた。


「誤解しないで欲しいのは、別に家計が苦しいわけじゃないのよ。慰謝料ももらってるし、うちの母もバリバリ働いてるから。でも、毎日忙しそうだから少しは楽させてあげたいって、それだけ。私の自己満足ってところね」


「そうなんですか」


「そうよ。だからバイトは趣味なの。ま、自分の学費ぐらいは稼いでおこうってのはあるけど」


「理子先輩、やっぱりすごいです。尊敬します」


「ありがと」


 そう言って、笹川さんは去って行った。

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