第101話 達樹の謝罪

 金曜のお昼休み。いつもように俺たちは4人で文芸部の部室に向かった。

「浜辺陽春、櫻井和人、笹川理子、小林達樹、入ります!」


 陽春は今日は全員の名前を言ってドアを開けた。今日は珍しく三上先輩と雪乃先輩が居ない。たぶん、逃げたんだと思う。

 なぜなら今日は上野さんが達樹のところに来るからだ。達樹には事情は話しておいた。当然今日は謝ることになるだろう。


 しばらくするとドアの向こうから声がした。


「上野雫、不知火洋介、入ります」


 上野さん、不知火の名前をついに覚えたようだ。

 上野さんは入るなりすぐに言った。


「小林先輩、何か言うことありますよね?」


「ご、ごめん! 雫ちゃん!」


 達樹はすぐに謝った。


「私の心をもてあそんだ罪は重いですよ」


 上野さんがまるで達樹と浮気したかのように言う。


「だって、不知火がもっと雫ちゃんと仲良くなりたいって言うからさ。それに雫ちゃんが不知火にツンばかりでデレを見せないから見てみたいなって……」


「私、ツンデレでは無いですから、理子先輩と違って」


「何? 私もツンデレじゃ無いわよ」


 笹川さんが言う。


「いや、どう見てもツンデレですよ」


「なんでよ、デレてるとこ見たこと無いでしょ」


「勉強会の時、小林先輩の口の周り拭いてあげたりしてましたよね」


「……」


 笹川さんは何も言い返せないようだ。まあ、俺から見てもツンデレだし。


「理子先輩の罪も重いですからね。彼氏の暴走を止めないで」


「それはごめん。私も強く止めとけばよかった。謝る」


「じゃあ、お二人に判決を言い渡しますね」


「判決?」


「はい。罪をどう償うかという話です」


「な、何すればいいんだ?」


 達樹がおびえている。


「今日、理子先輩のバイト先に行きます。全部、小林先輩のおごりで」


「ぜ、全部って?」


「それはもちろん、私と不知火と陽春先輩、櫻井先輩の分ですよ」


「なんで、和人たちの分も俺が払うんだよ!」


「陽春先輩は私を助けてくれましたし。櫻井先輩は……おまけです」


 おまけかよ。まあ、俺はおごられるようなことはしていないし。後で俺の分は達樹に返しておこう。


「……はぁ。まあ、仕方ないか。理子もいいか?」


「いいわよ。あんまり騒がないでよね」


「それは陽春先輩に言ってください」


「ウチも今回は悪かったから。おごられるのも何か……」


「いえ、陽春先輩には助けられました。やっぱり大好きな先輩です」


「雫ちゃん!」


 陽春が上野さんのところに行って抱きしめる。


「今日は好きなもの食べましょう」


「そ、そうだね。ぱーっと行こうか」


「はい。不知火も好きなもの食べてね」


「え、俺は上野さんに迷惑掛けたし……」


「実行犯ではあるけど小林先輩に騙された被害者でもあるから」


 なんかほんとに犯罪っぽくなってきたな。


「まあ、不知火。今日は遠慮するな」


 達樹が言った。


「わ、わかりました……」


「じゃあ、今日の放課後、先輩達の教室に行くから待っててください」


「え、ウチの教室に?」


 陽春が驚いて言う。


「はい、私たちの教室に来てもらうとたぶん騒がれるので」


「そっか、雫ちゃん、学年のアイドルだもんね」


「なんかそういうことらしくて、何しても注目されちゃうんですよね。2年生にはまだ知られていないと思うんで」


「じゃあ、外で待ち合わせしたら?」


「……先輩達の教室に行ってみたいんです」


「ああ、そういうことね。うん、じゃあ待ってる!」


「楽しみにしてます」


 そう言って上野さんと不知火は出て行った。


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