第100話 上野雫の反省

「上野雫、入ります」


 俺たちが部室に来てからしばらくして、上野さんが入ってきた。


「あれ? 今日も一人?」


 冬美さんが聞く。


「そうなんですよね……どうしましょ、先輩。不知火に本格的に嫌われちゃったかもです」


 上野さんは少し苦笑いで言った。ちょっと落ち込んでいるようにも見える。こういう姿は初めて見た。


「どうしたの?」


 冬美さんが聞く。


「何か避けられてるみたいで。話しかけてこないし、私が近づくと逃げるんですよね」


「そうなんだ……」


 冬美さんが言う。


「はい、いつもはうっとうしいんですけど、居ないなら居ないでいろいろ困ることもあって。あいつが近くに居なくなってから急に告白増えちゃって」


「え? そうなの?」


「はい、今も断ってきたのでちょっと遅くなっちゃいました」


「なるほど、今まで不知火が近くに居たから告白されなかったってことか」


 俺は思わず言った。


「そうみたいで。このままだといずれトラブルに巻き込まれそうで困ってます」


「そっか。それにしても不知火君、どうしたんだろうね」


 冬美さんが言った。


「うーん、私、なんかしちゃったみたいなんですけど、自分じゃ分からなくて……」


 上野さんが言う。


「何したのかも分からないのに謝るのも変だし。どうしようって感じなんですよね……」


 上野さんは寂しそうに言った。


「陽春先輩、どうしたらいいですかね?」


 上野さんが陽春に聞いたときだった。


「……もう我慢できない……」


 陽春が小さい声で言った。


「え? 陽春?」


 俺は陽春に聞くが、陽春は大きな声を出した。


「もう我慢できない!!」


 ダメだ、陽春は爆発してしまった。もう俺にも止められない。


「え、陽春先輩、どうしたんですか?」


 上野さんが突然の陽春の豹変に驚いている。


「雫ちゃん、ごめん。全部、小林君が仕組んだことなんだ」


「え? 小林先輩が?」


「うん。不知火君がどうやったら上野さんと仲良くなれるかって聞いたら『押してだめなら引いてみな』って言い出しちゃって……」


「なるほど……」


「だから、雫ちゃんは何も悪くないの。私も止めなくてごめん!」


 陽春は頭を下げた。


「そういうことですか、なんだ……正直焦りましたよ。私が何かしちゃったのかと」


 そう言うと、上野さんはスマホを取り出した。電話しているようだ。


「……陽春先輩に全部聞いたから。今すぐ部室に来て」


 不知火に電話したのか。上野さんは電話を切ると俺に言った。


「さてと……当然、櫻井先輩も知ってたんですよね」


「ご、ごめん!」


 俺は頭を下げた。


「私は何も知らないわよ」

「私も」


 冬美さんと立夏さんが言う。


「なるほど。となるとお昼のメンバーですね」


 上野さんはじろりと三上部長と雪乃先輩を見た。


「す、すまん、雫ちゃん。調子に乗った。謝る」

「私も止められなくてごめんなさい」


 その謝罪を見て上野さんはため息をついた。


「まあ、いいですよ。確かに私も不知火を軽く扱いすぎてましたし。今回の件で反省しました」


 すると、そこで大きな声が響いた。


「不知火洋介、入ります!」


 そういえば、洋介だったな、と俺はそんなことを思った。

 扉を開けた不知火は上野さんの前で土下座した。


「上野さん、ごめんなさい!」


「もういいわよ、立ちなさい」


「う、うん」


 不知火は立ち上がる。


「今日から部活、参加しなさいよね」


「うん……ごめん」


「一応言っとくけど、私、不知火のこと嫌いじゃ無いから。嫌いなら私はあんたを近づけないし、文芸部だって辞めてるから」


「そ、そっか」


「だから焦って今回のようなことをしないように。二度目は無いからね」


「ご、ごめん」


「うん、よろしい。で。どう? これ?」


 上野さんは鞄に付けたクロミちゃんのぬいぐるみを見せた。


「付けてくれてありがとう。ずっと言いたかったんだ」


「ふふ、そっか。また取ってよね」


「もちろん!」


 不知火も上野さんも笑顔になっていた。


 ただ、明日は達樹もただじゃすまないだろうな。

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