第94話 不知火の悩み
その日の昼休み、俺たちはいつものように4人で文芸部の部室に向かった。
「浜辺陽春とその彼氏! 笹川理子とその彼氏! 入ります!」
陽春はそう言ってドアを開けた。
なんで女子の名前だけ言うようになった。
部室にはいつものように三上先輩と雪乃先輩が居た。
俺たちが食事を終えたころ、不知火が入ってきた。
「不知火、一人か?」
上野さんは居ないようだ。
「はい……師匠、全然上野さんが相手してくれません」
俺を師匠と呼んで、不知火はいつもの席にドカっと座った。
「そうなんだ。昨日、少し仲良くなったと思ったのにな。ダメか?」
「はい、全然です……」
やっぱり、上野さんは不知火を相手にしないか。
「なあ、不知火。お前、しょっちゅう上野さんにちょっかいかけてるのか?」
達樹が口を出してきた。
「ちょっかいって……まあ、そうですけど」
「だよなあ、だったらさあ、そろそろ引いてみたら」
「え、引く?」
「そうだよ。押してだめなら引いてみなって言うだろ? しょっちゅうちょっかいかけてるやつが、いきなり何もしてこなくなったら、上野さんだって気になるって」
「そ、そうでしょうか。上野さんは厄介払いできて喜びそうですけど」
自分で言うか。でも、確かにそうなりそうだよなあ。
「今まで何やっても振り向いてくれないんだからやってみろって」
「でも、文芸部で結局一緒ですし」
「休め、休め」
「え!? それは……」
「どうせたいしたことやってないんだろ。ちょっと休んでも平気だって」
達樹が無責任なことを言う。
「部活を休むのをすすめるのはよくないな」
三上部長が口を出してきた。
「あ、部長居たんでしたね。すみません!」
達樹が言う。
「でも、まあいい案だと俺も思う。今週は休んでみたらどうだ?」
「三上部長まで……」
「それでダメならもう脈無しだからあきらめろ」
「えー!」
「やるなら、それぐらいの覚悟を持ってやれ」
「……わかりました。では、今週は休みます」
「不知火、マジか」
俺は思わず言った。
「はい。上野さんにも声は掛けません。そして、来週、何の変化も無いようなら、いさぎよくあきらめます」
「本気か?」
「男に二言はありません」
「そ、そうか……」
たぶん、ダメっぽいと思うけどなあ。
ここまで、女性陣が何も言わないのも気になる。
「なあ、陽春。上手くいくと思うか?」
「うーん、どうだろうねえ。私はやめた方がいいと思うけど」
「そうなのか」
「うん、雫ちゃんを試すようなことになっちゃうし」
「まあ、そうだよな」
「それに雫ちゃんがもし、本気で不知火君をうっとうしいって思ってたら、これで終わりになっちゃうし」
「そ、そんな……」
「私もあんまり賛成できないかな」
笹川さんが言う。
「そうですか……」
「でも、じゃあ他に何か手があるかって言われたら無いと思うし」
「じゃ、じゃあ、やってみます! もう俺に残された手はありません」
「そうか……」
果たしてどうなるやら……
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