第91話 書店

 その後は近くの書店に移動する。陽春と上野さんはすっかり仲良くなって一緒に漫画のコーナーを見ている。俺と不知火はそこから少し離れて二人を見守っていた。


「なんか男女に分かれちゃいましたね」


 不知火が言う。


「上野さんはほんと陽春を慕ってくれてるよな。俺も嬉しいよ」


「そうですか。でも俺は全然進展していないような……」


「そうか? 少し距離縮まったように感じたぞ」


「ほんとですか? だったら来た甲斐はあったかな」


 そんなことを話していると陽春と上野さんの近くに男子が一人、近づいてきた。そして話しかけている。


「あれ? 浜辺か?」


「あ、部長」


「部長はやめろよ。俺も浜辺ももうテニス部じゃ無いだろ」


「そ、そうだね。佐藤君」


 あいつか。中学の時のテニス部部長。陽春と付き合っていると噂されていたという。楓さんが元カレだと立夏さんに嘘をついていたやつだ。背は高め。すらりとしてスポーツマンという感じ。話し方も何か偉そうだな。


「浜辺も暇してるのか? だったら、俺とちょっと付き合わないか?」


 俺は陽春の元に急いだ。


「陽春!」


「和人……」


「え、誰?」


 佐藤が俺を見て言う。


「陽春の彼氏だけど」


 俺は陽春と佐藤の間に入って言った。


「え、浜辺の彼氏? 嘘だろ。ナンパと思ったのかもしれないが俺と浜辺は友達だから」


「嘘じゃない」


 俺は陽春の手をつかんだ。


「おい、やめろよ。浜辺が困ってるだろ」


 佐藤が俺の手をほどこうとする。


「う、嘘じゃ無いから!」


 陽春が大声を出した。佐藤の動きが止まる。


「和人はウチの彼氏だよ」


 陽春が俺の腕に抱きついた。唖然とする佐藤に、上野さんが言う。


「ほんとですよ、陽春先輩は櫻井先輩と交際しています。すごく仲がいいですよ」


「そ、そうなんだ……浜辺の彼氏か。ハハ、すまなかったな。じゃあ、俺は退散するよ。浜辺、またな」


 そう言って佐藤は去って行った。


「はぁ。楓さんの情報もあながち嘘じゃ無かったな。あいつが陽春を狙ってるって」


「びっくりしたあ。あんな強引な人じゃ無かったんだけど……」


 陽春はショックを受けているようだ。


「大丈夫か?」


「う、うん。でも、少しこのまま居させて」


 陽春は俺の腕にしがみついていた。


「もちろん、いいよ」


「やっぱり、陽春先輩もモテますね」


 上野さんが茶化して言う。


「モテなくていいところではね」


「でも、助けに来た櫻井先輩もかっこよかったですよ」


「いや、少し遅くなってしまった。ごめん、陽春」


「そんなことないよ。大丈夫」


「……あの人とは中学時代、仲良かったのか?」


 俺は気になることを聞いてみた。


「う、うん。同じ部活だったし。ちょっと気が合ったというか……。でも恋愛関係じゃ無いよ。ただの友達だから」


「そ、そうか」


 もちろん、ただの友達だとは分かっていたが、なんかモヤモヤする。俺はそれがどういうことなのかを考え続けていた。


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