第88話 映画館

 ランチの後は7階の映画館に向かう。上野さんが文芸部に入る理由の一つが陽春だったと聞いて、陽春はすごく上機嫌だ。


「デデデデ! デデデデ!」


 陽春が子どものようにはしゃいでいる。


「はぁ、櫻井先輩、彼女がはしゃぎすぎですよ」


 上野さんが言う。


「陽春、少し静かにしようか」


「そ、そうだね……でも、楽しみ!」


 いつになくハイテンションだなあ。


「まずポップコーン買うか」


「うん! ペアセット!」


 ポップコーン1つに飲み物が2つ付いたペアセットがある。

 

「じゃあ、俺と陽春、不知火と上野さんでペアセットを買おうか」


「はい!」


 不知火が上野さんとのペアセットを買うことになって喜んでいる。当然のように不知火がお金を払ったようだ。


 席は4つ。俺たちは不知火、上野さん、俺、陽春、の順に座った。


「はい、和人。食べよう!」


 陽春はポップコーンを俺の席の間に置き、2人で食べはじめた。


「櫻井先輩、どうぞ」


 上野さんが自分たちのポップコーンを俺に差し出してきた。


「ちょっと! そのポップコーンは不知火君とのペアセットだよ」


「え、そうでしたっけ。まあ、いいでしょ」


 さすがに不知火、かわいそうだ。


「俺は自分たちのを食べるし、そのポップコーンは不知火と食べたら?」


 上野さんに言ってみる。


「櫻井先輩がそう言うなら仕方ないですね。はい」


 上野さんが不知火にポップコーンを差し出す。


「あ、ありがとう!」


 不知火が言う。


「全部食べていいから」


「え?」


「私は陽春先輩たちからもらうし」


 上野さんは俺の席の方に手を伸ばしポップコーンを食べようとする。


「あ、すみません、櫻井先輩」


 届きにくいので上野さんは体を倒し、俺の足にかなり近づき、少し当たってしまう。


「し、雫ちゃん……」


 陽春が立ち上がって上野さんをにらんだ。


「あ、やりすぎちゃったみたいですね……不知火、ポップコーン食べようか」


 上野さんは不知火の持つポップコーンを食べ始めた。


 そのうち、映画が始まった。始まってしまえば全員映画に集中する。


 そして映画が終わった。


「あー、面白かったですね、先輩。って、え!? 陽春先輩!?」


 上野さんが陽春を見て驚いている。そう、陽春は前もこの映画を見たときに号泣したのだ。

 今回も前回並み、いやなぜか前回以上に号泣モードだ。必死に涙を耐えようとしながらも涙が出てきていている。


「確かに感動要素ありましたけど、そこまでですか?」


「めちゃくちゃよかったよ! うぅぅぅぅ……おんたん、かどでちゃん……」


 まずいな、前回の経験から行くと……。


「悪い、上野さん、不知火。陽春はこうなると長いんだよ。しばらく2人で遊んできてくれないか。映画館の前の椅子で俺たちは座っているから」


「そ、そうなんですか。わかりました。行こう、不知火」


 上野さんは不知火を連れて映画館を出て行った。


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