第86話 ランチ
「そういえば、お昼、どこで食べます?」
上野さんが聞いた。
「私はどこでもいい!」
陽春が言う。俺も不知火もどこでもいいと言った。
「じゃあ、私の行きたいところでいいですか?」
上野さんが言う。
「うん!」
「いいぞ」
上野さんは二階のパンケーキ屋に向かった。
「一回来ただけですけど美味しかったので」
割と値段は高めだ。
「不知火、大丈夫か?」
上野さんにランチ代を払うと言っている不知火に聞いてみる。
「だ、大丈夫ですよ、もちろん」
声が上ずっているが大丈夫だろうか。
「よし! 入ろう!」
陽春が真っ先に入っていくので俺たちは付いていくしかなかった。
席に着き、4人で注文する。女性陣はパンケーキ、男性陣はハンバーガーを注文した。
「不知火君とこうやって休日に会うのは初めてだね!」
陽春が不知火に話しかける。
「そ、そうですね」
「じゃあ、今日は不知火君のことをいろいろ教えてもらおう!」
陽春が一人で盛り上がっているが上野さんは知らんぷりだ。
「ね、不知火君はなんで文芸部に入ろうと思ったの?」
陽春がストレートに聞く。
「そ、それは……」
不知火が上野さんをチラッと見た。
「何?」
上野さんが不知火を見て低い声で言う。もちろん、上野さんはその理由を分かっているだろうに。そして、不知火は言えないだろうな。
「上野さんが文芸部に入ったと聞いたからです」
不知火、正直に言ったな。
「へー、私が文芸部に入ったからって何で不知火君が入るの?」
上野さんが追い打ちで聞く。絶対分かってて聞いてるよな。言わせようって事だろうか。
「そ、それは……」
さすがに不知火は答えられない。
「まあ、知ってるけどね」
上野さんが意地悪く言う。
「……え!? もしかして、文芸部に入る前から雫ちゃんラブだったの!?」
陽春も感づいて言った。
「陽春先輩、ストレートすぎです」
上野さんが言う。
「だって、驚いちゃって……そうなんだ」
「す、すみません。そんな感じで入っちゃって」
「まあ、人それぞれだし、いいんじゃない? 他にもそんな感じの人も居るし」
陽春が言う。まあ、居るか。俺も似たようなものだし。
「でも、中学の時は何か部活やってたの?」
陽春が不知火に聞く。
「はい、野球部でした」
「へー、そうなんだ。言われるとそれっぽいね」
確かに不知火は背は高いし、すらっとしているが体は鍛えている感じはあった。
「でも、肘を壊しちゃって、やめちゃったんです。だから高校から何かを始めたいと思ってて……」
「なるほどね。そこで、雫ちゃんと出会ったと」
「はい、隣の席で。いろいろ話しているうちに……」
隣の席だったのか。上野さんのことだし、不知火にもあの上目遣いをしたに違いない。それが効き過ぎたんだろうなあ。
そんなことを話しているうちに料理が来て俺たちは食べ出した。そして、上野さんが今度は話し出す。
「じゃあ、次は櫻井先輩の話を聞きたいなあ」
「俺? 別に面白い話は無いよ」
「じゃあ、なんで文芸部に入ったんですか?」
「陽春に誘われてね。人数少なくてやばいって」
「そう! 和人が入るまで先輩達とウチの3人だったんだよ」
陽春が口を出す。
「え、そうなんですか。立夏先輩たちは居なかったんですか」
「そうだよ。二年生の中でウチだけが文芸部二年目だから」
「そうだったんですね……でも、陽春先輩が一番文芸部っぽくないですよね」
「なんでよ!」
「ま、それはいいとして、櫻井先輩は何で陽春先輩なんかと付き合ってるんですか?」
「『なんか』って何よ!」
陽春が怒る。
「だって、立夏先輩って櫻井先輩のこと好きですよね。なのになんで陽春先輩を選んだんだろうって思って……」
上野さんがぶっちゃけた。まあ、見てれば分かるか。
この質問に何と答えたらいいか……正直に言うしか無いか。
「いや、選んだとかじゃないよ。最初に仲良くなったのが陽春だったし、立夏さんとはたいして話したことも無かったから」
「え、そうなんですか?」
「うん。だから、俺からしたら陽春しか見えてなかった」
「でも、今の櫻井先輩は陽春先輩を選んでるじゃないですか。その気になれば、立夏先輩でも私でも付き合えるんですよ?」
「ちょっと! なんでちゃっかり自分も選択肢に入れてんのよ」
陽春が突っ込む。
「大丈夫だよ、陽春。俺が選ぶのは陽春だから。陽春のことを知れば知るほど好きになってるよ」
「か、和人…・・」
「ふーん、そうですか……。櫻井先輩って素敵な人ですけど女の趣味だけは悪いですね」
「な、なんてこと言うのよ!」
「ま、誰にでも欠点はありますから」
「もう! でも、私にとってはいい欠点か」
俺の女の趣味が悪いことは陽春も認めてしまったのか。
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