第85話 待ち合わせ

 そして日曜日になり、俺は駅ビル・アミュプラザ熊本の前に来ていた。まだ待ち合わせ時間には30分早いが念のため早めに来たのだ。まだ誰も居なかったが、しばらくすると不知火がやってきた。


「先輩、早いですね」


「おう。俺も少し前に来たばかりだし」


「そうですか、デートってやっぱり男子が早めにくるべきなんですかね」


「どうだろうな、俺も大して経験が無いから」


「そうなんですか」


「そうだよ、陽春が初めての彼女だし」


「そうだったんですね」


 そんなことを話していると陽春がやってきた。


「おっはよう! ウチの彼氏と不知火君!」


「おはよう、陽春」


「おはようございます、浜辺先輩。今日は来ていただきありがとうございます」


「なんか不知火君、堅いねえ」


「いえ、今日は櫻井先輩、浜辺先輩の2人のご協力で実現できたので。ほんとに感謝してます」


「まあ、そんな堅いこと言わないで今日は楽しもう!」


「はい!」


 陽春の気軽なノリに少し不知火もほぐれたようだ。そこに上野さんがやってきた。


「おはようございます、先輩」


「おはよう! 雫ちゃん!」

「おはよう、上野さん」


「今日はよろしくお願いします」


 上野さん、不知火には目もくれず俺たちに挨拶した。今日の私服は水玉のワンピースだ。まさに美少女という感じである。それを見て、不知火は緊張しだしたようだ。


「お、おはよう、上野さん」


 ガチガチの不知火が上野さんに挨拶する。


「あ、おはよう」


 上野さんはチラッと不知火を見て言った。


「きょ、今日はよろしく」


「はい、よろしく。じゃあ、行きましょうか」


 上野さんは歩き出す。その様子を見て陽春が言った。


「ちょっと、雫ちゃん! 不知火君、かわいそうだよ」


「え、何がですか?」


「だって、せっかく雫ちゃんとデートできるって思って楽しみにしてただろうに、そっけなくない?」


「私、不知火じゃなくて櫻井先輩とのデートのつもりで来たんですけど」


「なんでよ! 何でウチの彼氏とデートするの!」


「ダブルデートってそういうことですよね」


 俺が二人とデートするダブルデートかよ。


「違うから! カップル二組!」


「そうなんですか……じゃあ、帰ろうかな」


「ちょ、ちょっと待って、上野さん」


 慌てて俺は止めた。


「なんですか?」


「今日はダブルデートじゃなくて4人で遊ぶって言ったでしょ」


 俺は何とか取り繕う。


「そうなんですか」


「うん、だからみんなで行こう」


「……分かりました。櫻井先輩がそう言うなら」


 ふぅ。なんとか上野さんを引き留め、みんなで駅ビルに行くことに成功した。上野さんと不知火に先に行かせ、俺と陽春は後ろから付いていく。


 陽春が小声で聞いてきた。


(ダブルデートじゃなかった?)


(とりあえず4人で遊ぶってことにしておけば自然に2対2になるから)


(そうかなあ)


(大丈夫だって)


 俺と陽春が2人でいれば自然に上野さんと不知火になるだろう。


「そういえば、陽春。今日はこの間買った服じゃないんだな」


 この間のデートで俺は陽春に服を買ってあげた。陽春が持っていないスカートなど可愛い感じの服だ。でも、今日の陽春はTシャツにジーンズという格好だった。


「あー、あれは二人の時に着ようかと思って。ちょっと恥ずかしいし」


「そうか……あれは可愛かったけどなあ」


「可愛いんだけどさ。今日は雫ちゃん居るし、ね」


 上野さんはかわいい系だから、ということだろうか。


「よくわかんないけど、そういうもんなんだ」


「そうだよ」


 それを聞いて上野さんが振り返る。


「陽春先輩、もしかして私に可愛さでは勝てないと判断しました?


「ち、違うから! 雫ちゃんの可愛さを邪魔しないようにって」


「そうですか、真っ向勝負でも私は大丈夫ですけど」


「じゃあ、今度、ボーイッシュな服で勝負する?」


「……確かにお互いの領域を守った方が良さそうですね」


「でしょ」


 陽春が珍しく上野さんを言い負かしたようだ。


 上野さん、勝てないところでは勝負しない、って感じなんだな。


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