第84話 文芸部
「浜辺陽春、櫻井和人、高井立夏、長崎冬美、入ります!」
俺たちは文芸部の部室に入った。
「お、来たな。各自、始めてくれ」
三上部長と雪乃先輩はパソコンを開いてもう執筆活動中だ。
「雪乃先輩、少し見てもらえますか?」
「いいわよ」
立夏さんは自分のタブレットを開いて、雪乃先輩に作品を見せてアドバイスをもらっていた。
冬美さんは自分の本を読みながら何かメモしている。俺も自分の本を取り出した。
「上野雫と不知火、入ります」
そこに一年生達が入ってきた。
「あ、高井先輩、もう見てもらってるんですね」
上野さんが言う。
「雫ちゃん、その高井先輩って言うの、そろそろ名前でお願いできないかしら」
「え、いいんですか?」
「だって、陽春ちゃんは陽春先輩でしょ。冬美も冬美先輩なのに……」
「まあ、そうですね。なんとなく高井先輩は敷居が高くて」
「そういうの、ちょっと傷つくのよね」
「わ、わかりました。立夏先輩」
「うん、よろしい」
立夏さんが言った。立夏さん、何か少し親しみやすくなったな。
そんなやりとりを見てたら陽春が肘をつついてきた。
「他の子ばっかり見て」
「あ、ごめん。つい、見ちゃってた」
「もう! 私を見てよね。彼女なんだから」
「わかってるって」
陽春が絵を描いているのを見る。やっぱりうまいな。
「絵じゃなくて私を見て」
「え?」
「私を見て!」
「あ、うん」
絵を描く陽春の顔を見る。やっぱり、かわいい。そうやってしばらく見つめていた。
「……あ、あんまり見つめないでよ、照れるから」
「どっちだよ」
俺は仕方なく本を読み出した。
「陽春先輩、あんまりイチャイチャしないでください。部室ですよ」
「し、してないから!」
上野さんの言葉に陽春が大声を出した。
「してましたよね、立夏先輩」
「うん、してたわね」
「なんか2人仲良くなってるし!」
「そうですか? 私は元々、立夏先輩派なので」
「なんでよ!」
「陽春ちゃん、騒がしいわよ」
冬美さんが言う。
「ご、ごめん」
そこからは陽春は黙って絵を描き出した。
俺も本を読み出す。あっという間に部活は終了時間を迎えた。
「それじゃあ、お先に」
立夏さんと冬美さんは先に部室を出た。俺と陽春はわざと少し時間を掛けていた。そして、上野さん、不知火たちと一緒に廊下に出る。日曜日の話をしておきたかったからだ。
「日曜日、楽しみですね」
上野さんが俺に言う。不知火の方に言ってもらいたいところだが。
「そ、そうだね」
「映画は何見るんですか?」
「『デデデデ』!」
陽春が言う。
「あー、陽春先輩が絵を描いてるやつですね」
「うん! もう一度見ておきたくて」
「でも、あれって、前編後編じゃなかったでしたっけ。私、前編見てないですけど」
「あ、俺も見てないです」
上野さんと不知火が言う。そうだった、確かにそうだ。
「あー、YouTubeに前編の紹介動画あったから見ておいて」
「あ、そうなんですね、分かりました」
「あとで、アドレス送っとく!」
陽春も言った。
「あと、ランチも食べるんですよね?」
「うん! 雫ちゃん、何がいい?」
「私は何でも……」
「じゃあ、どこかで好きなもの食べよう!」
「あ、俺、上野さんの分、出すから」
不知火が言う。
「なんで? いいよ。デートじゃ無いんだし」
あっさり断られたか。
「そう言わずに。いつも迷惑掛けてるから」
「自覚あるなら反省したら?」
「ご、ごめん。でも、明日は払わせてくれ」
「ま、いいけど」
「そ、そうか! ありがとう!」
おごっている方が感謝の言葉を言っているがいいのだろうか……
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