第71話 部活に向かう
木曜日の放課後になった。 陽春が俺の席に来る。
「ウチの彼氏! 部活だよ!」
「そうだな」
「和人君、陽春ちゃん、行きましょう」
立夏さんと冬美さんも来た。俺たちは4人で文芸部に向かった。
「あ! 雫ちゃん!」
階段に入ると珍しく上野さんと不知火と出会う。
「先輩方、お疲れ様です」
「うん、疲れた! 行こう!」
陽春が上野さんの手を取る。
「ちょ、ちょっと先輩」
上野さんは陽春に連れられて階段を駆け上った。
そして、部活の扉の前に来る。
「浜辺陽春、櫻井和人、高井立夏、長崎冬美、上野雫、不知火、入ります!」
不知火だけが名字だけだった。陽春は不知火の名前を知らないようだ。えっと……なんだっけ。
「来たわね」
雪乃先輩が一人で居た。
「あれ、三上部長は?」
「今、柳井先生と話してて少し遅れるって」
「柳井先生?」
確か国語の先生だ。もう結構高齢の白髪が多い男性教師。口調は優しく雑談が面白い先生だ。
「そうよ、顧問の」
「顧問? 柳井先生だったんだ」
「知らなかった?」
「はい」
陽春以外が全員頷いた。
「まあ、滅多にここに来ないしね。でも、部誌にはこだわりがあるみたい」
「部誌?」
そこで三上部長が部室に来た。
「やあ、みんなそろってるな」
三上部長が席に着く。
「今日は部誌について話したい。柳井先生にもしっかりやるように釘を刺されたからな」
「部誌、ですか。確か、文化祭に向けて作るやつですよね?」
上野さんが言う。
「そうだ。そろそろ本格的に準備に入らないといけないからな。文化祭は9月後半。だから、入稿は9月前半には済ませないと行けない。もう6月になるし、あまり時間が無いぞ」
そう言われればそうだ。俺は書評を書くつもりだから問題ないが、小説を書こうと思っている人には貴重な時間が無くなってきている。
「部誌って全員何か書くんですか?」
不知火が聞く。
「そうだ。と言っても小説や詩だけじゃなく書評でもいいからな。漫画やイラストでもいいぞ」
そうなんだ。幅広いな。
「ウチ、去年イラスト書いたし!」
陽春が言う。陽春は漫画が好きだけど絵も得意だったのか。
「へぇ。どういうやつだ? 見たいな」
俺が言った。
「あ、見せてなかったっけ。持ってくる!」
陽春がホワイトボードの後ろにある物置から部誌を探そうとする。
「陽春ちゃん、後にしましょうよ」
雪乃先輩が言った。
「え、そうですか? みんな去年の部誌を見たいかなあって。イメージ湧きやすいだろうし」
「あ、私は見たいですね」
「僕も見たいです」
1年生が言った。
「じゃあ、探すね!」
陽春が探しに行く。そういえば、冬美さんはお姉さん経由で見たのだろうか。
「冬美さんは去年の見たの?」
「私は見てないわね、興味なかったし」
「そうなんだ」
陽春がなかなか見つけられずに帰ってこない。
「陽春ちゃん、見つからないならやっぱり後に――」
「あった!」
雪乃先輩が再度言ったときに陽春が見つけたようだ。
「かなり、奥にあったから大変だったよ。なんでだろうね、はい!」
陽春が部誌をテーブルに置いた。3冊あったので1年生と2トップに1冊ずつ渡し、俺は陽春と見る。
「これがウチの絵だよ!」
陽春がページを開く。そこにあったのは、あの有名な五つ子ラブコメのイラストだ。
「陽春、絵上手だな」
もちろん、プロ級と言うほどでは無いが、なんというか味がある。
「そうかなあ」
陽春が嬉しそうに頭をかく。
「ですね、私も好きな絵です」
上野さんも言った。
「参ったなあ」
陽春がそういったとき、冬美さんが言った。
「これって……」
冬美さんが見ていたところを見ると小説のページのようだ。作者は長崎雪乃。雪乃先輩のか。タイトルは「あなたを想って」。恋愛小説かな。
「そこは見なくていいでしょ」
雪乃先輩が冬美さんの持っていた部誌を取り上げようとする。だが、冬美さんはかわして読み続けた。
「『同じ部活で喧嘩ばかりしていた彼。でも、私はそんな彼が……』」
「読み上げないでよ!」
雪乃先輩が言う。
「だって、これって……」
冬美さんが雪乃先輩と三上部長を見た。2人とも顔が真っ赤だ。どうやら、冬美さんの小説は三上部長への想いを書いたものらしい。
「うわぁ、そういうのもアリなんですね」
上野さんが言う。
「な、何でもありよ。自分が書きたいものなら」
雪乃先輩が顔が真っ赤なまま言った。
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