第72話 部誌

「えーと、じゃあ今年の部誌だが……」


 三上部長がホワイトボードに部員の名前を書き始めた。


「何を書きたいか、現時点での希望を言ってくれ。ちなみに、俺と雪乃は小説を書く」


 自分たちの名前の横に「小説」と書いた。


「俺は書評ですね、SFの」


「ウチはイラスト!」


 俺と陽春は早々に言った。


「私はせっかくだし、小説書いてみようかな……」


 立夏さんが言う。


「ああいうのもアリなら私にも書けるかも……」


 立夏さんは小さい声で何か言っていた。


「私もどうせなら小説書いてみたいです」


 上野さんが言った。


「私は小説とかは無理だから書評ね」


 冬美さんが言う。


「僕はまだよくわからないですけど、頑張っても書評ですかね」


 不知火が言った。これで全員が希望を伝えた。


「よし、わかった。まとめると、俺と雪乃、高井さん、雫ちゃんが小説。浜辺がイラスト、櫻井と不知火、冬美さんが書評だな。うん、バランスが取れてると思う」


 確かにそうだな。小説4人、書評3人、イラスト1人か。


「部長、私はいいんですけど、何か呼び方おかしくないですか?」


 上野さんが言った。


「ん? 呼び方?」


「はい、私だけ『ちゃん』づけだし。高井先輩、冬美先輩は『さん』付けだけど、陽春先輩、櫻井先輩、不知火は呼び捨てですし」


 言われてみればそうだ。


「そ、それは……冬美さんは雪乃の妹でそう呼んでたし、その友達で高井さんもそう呼んでたからなあ。部活で知った後輩は基本呼び捨てだ」


「でも、雫ちゃんはちゃん付けなんだ」


 雪乃先輩が言う。


「雪乃がそう呼ぶから俺もうつったんだよ」


「大地が『ちゃん』付けで呼ぶのなんて他に聞いたこと無いけど」


「こ、こら。大地じゃなくて部長だろ」


「あ、ごめん」


 久々に二人のイチャイチャ見たな。


「私はいいですけどね。『ちゃん』づけで。先輩はみんなそう呼んでくれますし。櫻井先輩以外」


 上野さんは俺を見た。


「そういえば、和人はかたくなに『上野さん』だね。雫ちゃんって呼んだら?」


 陽春が俺に言う。


「なんで彼女がそっちで呼ばせようとするんだよ」


「だって、後輩に距離あるように思うんだもん」


「じゃあ、試しに呼んでみるぞ。雫ちゃん」


「はい、先輩!」


 上野さんが笑顔で俺を見る。


「……やっぱりやめよう。なんかむかつくし、和人に似合ってない」


 陽春が言った。


「だろ、陰キャがちゃん付けで呼ぶもんじゃないから」


「私はいいですけどね、呼ばれても」


 上野さんが言った。


「じゃ、じゃあ、俺もいいかな。雫ちゃんで」


 不知火が入ってきた。


「は?」


 上野さんが低い声で不知火に言った。


「ご、ごめん……」


 不知火、撃沈か。


「そ、それはともかく、小説を書く人はもう構想練らないと間に合わないぞ。書評を書く人も候補を決めておけ」


 三上部長が全員に言った。


「あの……小説書いたこと無いんですけど、書き方は教えてもらえますか?」


 立夏さんが言う。


「もちろんよ、じゃあ私が教えてあげるね」


 雪乃先輩が言う。


「私もお願いします。自己流でしか書いたこと無いんで」


 上野さんが言う。


「わかったわ」


「あ、できれば三上部長に教えてもらいたいなあ」


 上野さんが三上部長を上目遣いに見た。三上部長は少し嬉しそうだが……


「ダメよ、私が教えてあげる」


 やっぱり雪乃先輩が許さなかったか。


「そうですか。でも、ときどき三上部長にも聞いていいですよね?」


「いいけど……何でそんなに部長に聞こうとするの?」


「特に深い意味は無いですよ。三上部長とも仲良くなりたいなあ、って思っただけです」


 上野さん、ついに雪乃先輩もからかいたくなったか。


「悪いけど部長は女子とは仲良くさせないから。ごめんね」


 雪乃先輩が恐ろしい目で上野さんをにらんだ。


「そ、そうですか、すみません……」


 さすがの上野さんもひるんだようだ。


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