第69話 ワードゲーム
「よし、文芸部、始めるぞ」
三上部長が言った。
「今日は読書感想会だが試験期間もあったしすぐ準備するのは難しい。そこで浜辺がワードゲームを用意してくれた。文芸部だから言葉のゲームをやっておくと語彙や発想が広がって創作に繋がっていくぞ。真面目にやるように」
「はい!」
陽春だけが大きな返事をした。他の部員は頷いただけだ。
「じゃあ、今日はこれをやります!」
陽春が『ワードスナイパー・イマジン』を出した。
「このゲームは、条件に当てはまる言葉を言うゲームです。カードをめくると文字が書いてあります。その文字で始まる言葉で、次のカードに書いてある条件を満たす言葉を言います」
例として出したカードをめくると、条件が「強いもの」、文字は「ぱぴぷぺぽ」だった。「ぱぴぷぺぽ」のどれかで始まる言葉で「強いもの」を言えばいいのか。
「これだったら……例えば……えっと……」
例を言おうとして陽春が固まっているので俺が助けてやる。
「『ペン』だな。ペンは剣よりも強し」
「おー、文芸部らしい」
三上部長が褒めてくれた。
「正解した人は文字のカードを取ります。はい、和人」
俺はカードを受け取った。
「カードに書いてある点数を合計して一番多い人の勝ちです」
「なるほど」
「じゃあ、やってみましょう!」
陽春がカードをめくった。
「『あ』ではじまる温めるものです!」
みんなが考え始める。三上部長が答えた。
「愛、だな」
「うわ、ロマンチスト」
雪乃先輩が言う。
「愛は温めるもの、正解ですね! では次。『か』ではじまる冷たいもの!」
今度は雪乃先輩が答えた。
「彼氏」
「えっと……」
陽春が正解かどうか判定できず、三上先輩を見た。
「俺、冷たいかな」
「ときどきね。正解でいいわよね」
雪乃先輩がカードを取った。場に重たい空気が流れる。
「では次です。『は』で始まるお金で買えないもの!」
立夏さんが答える。
「初恋……」
「せ、正解!」
陽春がカードを高井さんに渡した。
「へぇー」
そう言って冬美さんが立夏さんを見る。
「な、何よ。別にいいでしょ」
立夏さんが言った。
「じゃあ、次です。『ち』で始まるすぐ大きくなるもの!」
こ、これはアレだよな……。答えにくいものはすぐ浮かんだが、そんなもの、ここで答えられるわけがない。そう、男性にしか無いアレだ。
「あ、私、分かった!」
陽春が大声を出す。
「陽春ちゃん、ちゃんと考えて言ってよ」
雪乃先輩が言う。
「え、考えてますよ! じゃあ、言っていいですか?」
「陽春先輩、大丈夫ですよね?」
上野さんが言う。
「何が? 大丈夫だよ。ちょっときわどいけど思い切って言おうかなって」
「おい、陽春」
俺は焦って陽春を止めようとする。
「え、和人何かあるの?」
「い、いや、何も思いつかないなあ。ハハハ」
不知火が俺を見ている。俺は知らん顔をした。
「そっかあ。じゃあ、思い切って言うね。えっと……」
まさか、アレを言うんじゃ……。部員に緊張が走った。
「ち、チャイルド!」
なんだ。チャイルドかよ。確かに子どもはすぐ大きくなるけど。
「え、正解でいいよね。英語だからちょっときわどいかなって思ったんだけど」
「はい、せいかーい」
上野さんがカードを陽春にぽいっと投げた。
「な、何かみんなが冷たい気がするけど」
「気のせいだよ」
「そっか。じゃあ、行くよ。『ゆ』で始まる壊れやすいもの!」
「友情」
上野さんが即答で答えた。
「せ、正解……かな」
上野さん、過去に何かあったのだろうか……。
こうして、カードを取っていき、最後のカードになった。
「じゃあ、最後だよ。『こ』で始まる夜に使うもの!」
またやばいのが来たな。誰も何も答えないが、たぶん、あれを思い浮かべているやつも多いはずだ。そう、アレをするときに使った方がいいアレだ。俺はもちろん未経験だから使ったことは無いが。用意はした方がいいかもとは思っていた。
「あ、分かった!」
また陽春が言った。
「陽春ちゃん、大丈夫よね」
「え、大丈夫ですよ」
あぶないかと思ったが、さっきも大丈夫だったし、陽春は何か思いついたのだろう。
「じゃあ、言ってみて」
「うん! コン……」
そこまで言って陽春の顔がみるみる赤くなってきた。
「な、なんでもないです」
「陽春先輩……」
「陽春ちゃん」
「陽春、しっかり考えてから答えような」
「う、うん……」
「え、なんだったんですか?」
不知火が陽春に聞く。
「な、なんでもないから!」
陽春が大声を出した。
こうしてワードゲーム会は終わった。勝利したのは三上先輩だった。さすがだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます