第64話 映画の後

「デデデデ、最高だったな」


「うん。ぐすん」


 俺が声を掛けても映画に感動した陽春はまだ泣いている。何か俺が陽春を泣かせてそのまま連れているように見えるな。


「とりあえずフードコートに座ろう」


 陽春をフードコートに座らせ、俺は飲み物を買いに行った。そして席に戻る。

 すると、誰かが陽春に話しかけている。女性のようだ。


「大丈夫?」


「う、うん。大丈夫だから」


 心配して話しかけているらしい。良く見るとあれは委員長の山崎奈美だ。

 俺が近づいていくと山崎は俺に気がついた。


「ちょっと、櫻井君。これ、どういうこと?」


「え?」


「陽春ちゃん泣かせるなんて。何したのよ」


 山崎はかなり怒っている。


「ち、違うの!」


 陽春が大声を出した。


「陽春は映画で感動してるだけだから」


「え、そうなの?」


「うん……ごめん」


「なんだ。びっくりしたぁ。櫻井君が陽春を泣かせたんじゃないかと」


「そんなことしないよ」


「そうよね。もう、別れ話かと思ったじゃない」


「違うから」


「わ、別れたりしないからぁ!」


 陽春がそう大声で言って泣き出した。これじゃ、ほんとに別れ話していると思われる。周りの注目も集まりだした。


「まずい、俺たちちょっと別の場所に逃げるから。ごめん!」


 山崎にそう言って俺は陽春を連れて下の階に移動した。


 座っているとかえって目立つ。俺はハンズに移動し、雑貨を見ながら陽春の涙が収まるのを待った。


「大丈夫か」


「う、うん。もう大丈夫」


 陽春の涙は収まったようだ。俺はハンカチで陽春の目の周りを拭いてやる。


「あ、ありがと」


「陽春って涙もろいんだ」


「そういうわけじゃないけど、感動すると持続しちゃうから」


「そうなんだ」


 そんな話をしながら雑貨を見て回る。すると、陽春が興味をもったコーナーがあった。


「これって……」


 陽春が手に取ったのは『ガイスター』。陽春がうちに来たときにやったボードゲームだ。


「ボードゲームっていっぱいあるんだね」


「まあ、最近はちょっとしたブームだし」


 陽春はさまざまなボードゲームを見ている。


「今度文芸部でやりたい。どれか買おう」


 そう言っていろいろ見始めた。


「そうだな……だったら文芸部らしく言葉のゲームがいいんじゃないか?」


 いくつか言葉を使ったゲームが置いてあった。短歌のゲームとか文芸部らしくていいと思うけど。


「あ、これにしよう!」


 陽春は「ワードスナイパー・イマジン」というゲームを取った。お題に合わせて言葉を言うゲームだ。確かにすぐ出来そうだな。陽春はそれを買って大事にポーチにしまった。気がついたら陽春はいつもの笑顔になっていた。


「これからどうする? 買い物でもする?」


「そうだな……」


 俺は陽春を見た。確かに可愛い。けど……俺は少し思うことがあった。


「陽春、今日は俺からプレゼントをしたい」


「え?」


「陽春の服を買おう」


「いいよ、ウチの服なんて」


「俺が買いたいんだ。ただし、俺が選ぶから」


「え?」


 陽春の私服は今まで何回も見ている。だが、陽春はいつもボーイッシュな格好だ。それはそれで確かに可愛い。けど、陽春に女の子らしい可愛い服を着てもらいたい気持ちもあった。


「何買うの?」


「具体的にはスカートとか」


「え? ウチ、私服ではスカート持ってないよ」


「やっぱりそうなんだ。だから、その……そういう姿も見てみたいなって思って」


「なるほど……和人はそういう格好の方が好きなんだね」


「そ、そうじゃないから。今の陽春の格好も好きだよ。でも他の服も見たいと思って」


「そっか、わかった! じゃあ、和人の好きな服、ウチに着せて!」


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