第63話 陽春と駅ビル
日曜日、俺は陽春とデートだ。待ち合わせは熊本駅の駅ビル。結局、手近な場所を選んでしまった。キスが出来るようなロマンチックな場所は探さなくて良くなったので、とりあえずは映画デートにしたのだ。
俺は30分前には駅ビルの前に来ていたが、その直後に陽春もやってきた。今日の陽春はショートパンツにTシャツ、それに薄い上着を羽織っている。もちろん、キャップはかぶっていた。
「和人! おっはよう! 待った?」
「ほんとに今来たところだよ」
「ほんとに? 正直者だなあ」
陽春は笑顔で言った。
「でも、お腹減っちゃった」
「よし、じゃあまず食べようか」
俺たちは駅ビルの6階のフードコートにまず向かった。そこにはさまざまなお店がある。どこに行くかは決めていなかった。
「どこがいい?」
「うーん、ちょっとお腹減っちゃったからがっつり行きたいなあ」
「ふーん、じゃあ、ここは?」
俺はカレーの店を指さした。ここは地元の赤牛カレーなどがある。前を通るたびに気になっていたが行ったことは無かった。
「カレーか、いいね! ここにしよう」
俺たちはそこに入り二人とも赤牛カレーを注文した。すぐに来て食べ始める。
「あ、美味しい!」
「ほんとだ、美味いね」
俺たちは夢中になって食べた。
「和人、口の周りカレー付いてるよ」
陽春に言われて慌てて拭く。ふと、陽春を見ると陽春の口の周りにもいっぱいカレーが付いていた。
「陽春も同じだよ」
「え、嘘」
陽春も拭き始めるが全然違うところを拭いていてなかなか取れない。
「拭いてあげるからじっとしてて」
俺は陽春の口の周りを紙ナプキンで拭いた。何気ないがこれもなんかすごく照れる。
「あ、ありがと」
「う、うん」
2人とも赤くなってしまった。
その後は映画を予定している。陽春が薦めた漫画「デッドデッドデーモンズデデデデデストラクション」の後章だ。俺と陽春は前編は見ていないが漫画は読んでいる。せっかくなので映画館で見たくなったのだ。
公開されて最初の日曜なので人が多い。俺と陽春は少し後ろ目の席を取ってポップコーンを買って座った。
「楽しみだね!」
「う、うん」
すぐ隣に座った陽春の笑顔がまぶしい。
ポップコーンを取ろうとすると陽春と同時になってしまい手が触れてしまった。
「あ、ごめん」
「いいよ、彼女なんだから。いつ触ってもいいんだよ」
ニタっと陽春が笑う。
「そういうわけにはいかないだろ。彼女だからって何してもいいわけじゃ無いって笹川さん言ってただろ」
「理子はそう言うけどウチはいいから」
「俺はよくないの。陽春が大事だから」
「そ、そっか」
「うん、世界で一番大事」
俺は陽春を見た。すると陽春は赤くなっていた。
「そ、そういうことはアレの続きをするとき言ってよね」
陽春が言う。
「アレって?」
「だ、だから……キス」
さすがの陽春も映画館の中では小声だった。
「わ、わかった」
俺も照れてしまう。そうこうしているうちに映画が始まった。
◇◇◇
映画はすごい迫力でSF要素も多く、俺は大満足だった。
「いやあ、すごかったなあ」
俺はそう言って陽春を見た。
「は、陽春?」
「う、うぅ……うぅ……おんたん、かどでちゃん……うぅぅ」
陽春は泣いていた。
「陽春、大丈夫か?」
「う、うん。すごく、すごく感動した!」
陽春の大きい声が映画館で響く。帰る人が俺たちを見ていて恥ずかしい。
「そ、そうか。とりあえず出ようか」
「う、うん」
俺たちは映画館を出た。
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