第60話 ケーキ店

「こっちよ」


 老舗洋菓子店スイスは何店舗かあるが、本店は下通アーケードの中にある。もちろん、その店は知っていたが中に入るのは初めてだ。外から覗いても食べるところがあるように見えなかったが、立夏さんと冬美さんは慣れたように地下への階段を降りていく。


 地下は結構広く、カフェになっていた。陽春と笹川さんも初めて来たようだ。

 俺たちは3人が向かい合わせのテーブルに座った。俺と陽春が隣に座り、俺の隣に達樹が座る。その向こうには笹川さん、立夏さん、冬美さんが座った。


「何食べようか」


 ここは普通にオムライスやパスタなどもあるが、やはりスィーツだろう。


「ご褒美だし、ここはパフェ!」


 陽春が言い出した。パフェか。最近食べてないな。


「じゃあ、私もそうする」


 立夏さんがそういったことでみんなパフェの流れになった。


 注文を済ませると、高井さんが俺たちに聞いてきた。


「ところで、お二人の交際は順調なの?」


「うん! 順調!」


 陽春が答える。


「ふーん、うらやましい。じゃあ、もう結構進んだんだ」


 立夏さんが言う。


「進んでは……ないけど」


「なんだ、進んでないのね。よかった」


「でも、明日デートするから!」


 陽春が言う。

 そういえば、週末デートする予定だった。まずい、何にも考えてないぞ。


「ね、和人」


「あ、ああ。そうだったね……。ハハハ」


「あれ? もしかして和人君はデートのこと忘れてたの?」


 立夏さんが言う。


「いやあ、試験に追われてて」


「むぅ、ひどくない?」


「和人君はデートあんまり楽しみにしてなかったみたいね」


「そ、そんなことないから!」


 陽春が怒って立ち上がる。


「陽春ちゃん、いちいちムキにならない、って言ったでしょ。あんたが彼女なんだから」


 冬美さんが言う。


「あ、はい! すみません!」


 陽春はそう言ってまた座った。


「で、でも……和人が楽しみにしてないんだったら……」


 陽春が俺をチラッと見た。


「そんなことないけど、いろいろプレッシャーがあって現実逃避してたのかも」


 正直、キスできるようなロマンチックなデート場所が全く思い浮かんでいなかった。


「そ、そうなんだ。和人が困ってるならまた今度にする?」


「いや、デートはしよう。ただ……」


「ただ?」


「その……あの続きはもうちょっと待って欲しいかな」


「そ、そっか。わかった」


 陽春は少しうつむいて言った。


「ごめん」


「ううん、ちょっとウチも急ぎすぎたかな。ごめんね」


「でも、嫌じゃないから、俺も。ただ、なかなかいい場所が思いつかなくて」


「そ、そっか……」


 言っていて恥ずかしくなってきた。

 陽春も恥ずかしくなってきたのか、少し赤くなっている。


「何の話?」


 冬美さんが言う。


「あ、キスどこでしようかと」


「陽春! はっきり言わない!」


 俺はつい大声を出してしまった。


「ご、ごめん!」


「フフフ」


 気がついたら立夏さんが笑っていた。


「あ、ごめんね。陽春ちゃんかわいくて、つい笑っちゃった」


「だよね、陽春かわいい」


 笹川さんも言う。

 陽春と俺は赤くなっていた。


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