第59話 中間試験

 中間試験が始まった。俺はいつも勉強していないが、勉強会で勉強したおかげでかなり分かるようになった。おかげで初日から結構解けた。


「陽春、大丈夫か」


 俺は珍しく教室で陽春の席に近づき、声を掛けた。


「もうだめー。やばい」


 陽春はどうもあまり解けなかったようだ。


「今日、この後、勉強するか?」


「うん……やらないとまずい」


「そっか。じゃあどこでする?」


「ここだといろいろ周りもあるし……バスセンターのフードコートかな」


「分かった。じゃあ、行こう」


 気がつくと笹川さんと達樹はもう帰ったようだ。

 俺は陽春と一緒に学校を出た。


 だが、陽春は元気が無さそうだ。俺は陽春の手を握った。


「和人……」


「元気出して。俺は元気な陽春が好きだな」


「うん! わかった!」


 そう言うと握った手を前後に振り出した。鼻歌も歌っている。元気出してと言ったが、すごく元気になったな。


「何食っべようかな……」


「そうだな。お好み焼きとか」


「あー、いいねえ」


 俺たちはバスセンターのフードコートでお好み焼きを注文した。そして、勉強道具を広げる。今日は平日。人は少なめだ。


「明日の科目をやるぞ」


「えー、もうちょっと遊ぼうよ」


「だめだ。何のためにここに来たんだ?」


「デートでしょ」


「違うだろ。勉強」


「そうだけど……」


「試験、上手くいったらご褒美あげるから」


「え? 何?」


「うーん……」


 なだめようと思って適当に言ったから何にするかは考えていなかった。


「もしかして……」


「え?」


「これ?」


 陽春が目をつぶって少し上を見る仕草をする。


「ち、違う……第一、それは……」


「あ、そうか。キスはもう約束してたよね」


 陽春がはっきり言った。


「だから……もう。美味しいものだよ」


「え、お好み焼きより?」


「そ、そうだな」


 そう言いながら何にするかは考えていなかった。


「だったら、甘い物がいいな」


「なるほど、そうだな。甘い物にしよう」


「よし! 頑張る!」


 陽春は問題集を見始めた。


◇◇◇


 その翌日も、俺と陽春は放課後にデート、じゃなかった勉強会を行った。おかげで陽春もいい結果が出始めてきたようだ。


 そして最終日。全ての試験が終わった。


「終わったー!」


 陽春の声が教室に響いた。俺は陽春の席に行く。


「お疲れ様」


「うん! 疲れた! 和人、覚えてるよね?」


「もちろん、ご褒美だろ」


「うん、甘いもの食べに行こう!」


「そうだね、行こうか」


 笹川さんと達樹も陽春の席に来た。一緒に行こうと既に話していたのだ。


「どこ行く?」


「うーん、どこがいいかな……」


 すると、そこに高井立夏と長崎冬美が来た。


「甘いもの食べに行くの? 私たちもちょうど行こうかと話してたんだけど」


 高井さんが言う。


「あ、そうなんだ」


「どこ行くか決まってないなら一緒に行かない?」


「え?」


 俺は陽春を見た。また機嫌が悪くならないだろうか。


「どこ行くの?」


 陽春はどこに行くか次第のようだ。


「スイスよ」


 地元の有名ケーキ店だ。店の前は通ったことはあるが入ったことは無い。食べるところもあるのか。


「あー、行ったこと無い。行きたい!」


 陽春はあっさり一緒に行くことを決めた。ケーキには弱いようだ。


「じゃあ、俺たちも行くか」


 達樹がそう言って、笹川さんも頷いた。こうして俺たちは6人でスイスに向かった。


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