第58話 休憩
1時間ぐらい経過したところで陽春のお母さんの奈津子さんがやってきた。
「お、頑張ってるねえ」
「お母さん、何?」
「ケーキ食べるかと思って」
「食べる!」
陽春が元気よく言う。
「じゃあ、準備するね。ん? 陽春、あんたが勉強教えてるの? 珍しい」
陽春と上野さんがくっついて勉強しているのを見て言う。
「あ、いえ。私が教えてました」
「え? 上野さん、後輩だったよね」
「はい、1年生です」
「陽春、あんた……」
「いいでしょ! 雫ちゃんは頭いいんだからいいの!」
陽春は奈津子さんを部屋の外に押し出した。
「……雫ちゃん、続きお願い」
「はい……」
陽春はさらに上野さんに教わりたいようだ。
奈津子さんがケーキを持ってきて、休憩することになった。
今の席は上野さんのすぐ横に陽春、笹川さんのすぐ横に達樹が居て、俺は少し離れている。
「達樹、口の横に着いてる」
「え? 何が?」
「もう……」
笹川さんがティッシュで達樹の口元を拭いた。
それを見て上野さんが聞く。
「あの……お二人って付き合いだしたんですか?」
「付き合ってないよ」
「そうですか、でもすごく親しげですよね」
「まあな、俺は理子のバイト帰りも毎日送ってるし」
達樹が自慢げに言う。
「そうなんですか。理子先輩はどんなバイトしてるんですか?」
「ファミレスだよ」
「え! 行ってみたいです!」
「ダメ」
笹川さんは連れない返事だ。
「なんでですか。いいじゃないですか」
「ダメよ。恥ずかしいもん」
「えー! 小林先輩、連れて行って下さい」
上野さんが例の上目遣いで達樹を見た。これ、受け入れたら笹川さんに怒られそうだし、達樹はどうする?
「じゃあ、今度行こうか」
「やったー!」
あっさり落とされていた。
「こら、達樹!」
「あ、やっぱ無しで」
「えー!」
笹川さんに怒られ、達樹は撤回した。
「でも、なんで行ってみたいの?」
「私、バイトとかしたこと無くて、どういう感じなのかなって」
まだ高校生になったばかりだし、それもそうか。
「そっか。社会勉強だね。じゃあ、みんなと一緒なら来ていいよ」
「ほんとですか! ありがとうございます! じゃあ、今度是非お願いします!」
みんなってまた俺もか。
「でもね、さっきみたいに男子におねだりしてると、いずれ痛い目に遭うから気を付けてね」
笹川さんが上野さんに言う。
「はい、わかってます。もう、ちょっとやばくて……」
「そうなの?」
「はい。なんか男子につきまとわれたり、女子には妬たまれたりで」
「不知火とかか」
俺は言った。
「そうですね。不知火もそうですし、他にもいろいろと……」
「そうか。もしほんとにやばいことがあったら、いつでも俺たちに言ってくれ。何か力になれるかもしれない」
「はい、ありがとうございます」
かわいさを武器にするのも困りものだな。しかし、不知火のことを上野さんは良く思ってないようだ。不知火は報われなさそうだな。
その後、少し勉強会を続けたが、一度切れた集中力はなかなか戻らず、そのままお開きとなった。
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