第57話 勉強会
しばらくすると、陽春と上野さんが戻ってきた。なぜか陽春の顔が赤く、上野さんはニヤニヤしている。
「ん? どうかしたのか?」
「いえ。陽春先輩の秘密をちょっと……」
「雫ちゃん! 言わないでって言ったでしょ」
「言ってませんから。陽春先輩も女子だなって思っただけです」
「うるさいから、まったくもう……」
こんな短い時間で上野さんに弱みを握られてしまったようだ。たぶん、あの薄い本を見られたのだろう。
「何の話?」
「さ、勉強会始めようか」
達樹の疑問には構わず、笹川さんは勉強会の準備を始めだした。笹川さん、全く疑問に思っていないところを見るとあの薄い本については知っているようだな。
「ところで、みんなの得意科目は?」
笹川さんが聞いた。
「俺は暗記系だな」
達樹が言う。
「俺は現国ぐらいか」
国語は普段授業を聞いて無くても問題文読めば分かる。あとはそもそも授業を良く聞いていないので分かるわけが無かった。
「私はだいたいどれも同じぐらいですね」
上野さんが言った。
「じゃあ、私と一緒だね」
笹川さんも言う。この2人はオールラウンダーか。
「ウチは――」
「あー、陽春は分かってるからいいよ」
笹川さんが陽春に言わせなかった。
「陽春は全部やらないとね」
「う、うん……」
「じゃあ、問題やりながら分からないところ聞いていこうか。雫ちゃんも聞いてね」
「はい」
こうして勉強会が始まった。やっぱり陽春は分からない問題が多いようで、笹川さんに何度も聞いている。
しばらくすると、上野さんが俺の隣に来た。
「先輩、国語のこの問題が分からなくて……」
「どれどれ」
俺は問題を読み出す。
「ここなんですけど……」
上野さんが俺にすごく接近してくる。上野さんの良い香りが……。ちょっと、さすがにまずい……。
と思ったら突然、上野さんが俺から離れた。
「人の彼氏に何してるのよ!」
陽春が上野さんを無理矢理離したようだ。
「え、教えてもらってただけですけど」
「離れて教えてもらって」
「私、ちょっと目が悪くて……」
「じゃあ、眼鏡掛けて」
「今日、忘れちゃって……」
「嘘でしょ。鞄の中調べようか」
「あ、すみません、持ってきてました」
上野さんはわざとらしく眼鏡を取り出した。
「あんまり似合わないんで掛けたくないんですよね」
眼鏡を掛けて俺を見る。
「どうですか? 先輩。かわいくないですよね」
「そ、そんなことないよ」
「じゃあ、かわいいですか?」
「ちょっと! 雫ちゃん。分からないところは理子に聞いて!」
陽春が無理矢理上野さんを理子の方に引っ張っていく。
「わ、わかりましたから。引っ張らないでください」
「まったく……」
「陽春先輩、力強いですね」
「まあテニス部だったし。理子はもっとすごいからね。怒らせないようにね」
「は、はい」
上野さんは少しおびえた目で笹川さんを見た。
それからは陽春が笹川さんにひたすら聞く展開が続く。今は数学をやっているようだ。
「だから、これがこうなって……」
「え? この記号何?」
「だから……これ、高一でやったでしょ」
「そうだっけ?」
そこから笹川さんが高一レベルの解説をしていく。
「陽春先輩、今のも分かんないんですか?」
上野さんが言った。
「え、雫ちゃん、分かるの?」
「だって、高一レベルですもん。私、少し先まで予習してますし」
「そうなの? もしかして雫ちゃんって頭いい?」
「まあ、普通ですね。陽春先輩、私が教えましょうか?」
「ほんとに分かってるの?」
「分かってますから。ちょっと来て下さい」
そこから陽春のは上野さんの解説を聞き出した。
「おお! そういうことか」
「理解できました?」
「うん、雫ちゃん、頭いいね! じゃあ、こっちも分かる?」
「はい……」
それを見て達樹が俺に言ってきた。
「おい、お前の彼女、後輩に勉強教えてもらってるぞ」
「はぁ……」
俺はため息をついた。
「ま、その間に俺は理子に教えてもらえるからいいけど」
達樹は笹川さんに質問しだした。
ふとみると、ずっと上野さんが陽春に教えている。
「なるほど、なるほど……」
陽春はすごく勉強になっているようだ。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます