第24話 理子のバイト

 私、笹川理子は今日もバイトだ。ファミレスでの忙しい接客を行っていると、あいつが店に入ってきた。


「あんた、今日も来たの?」


 小林達樹だ。今日は1人で来ている。


「ダメだった?」


「ダメだよ」


「えー! 入れてよ」


 騒がれると困る。仕方ない。


「こちらへどうぞ」


 私は達樹を席に案内した。


「ご注文が決まりましたらお呼びください」


「ね、今日、何時に上がるの?」


「……なんで?」


「送ろうかと」


「まだ2時間以上あるよ」


「適当に時間つぶすから」


「はぁ」


「だって、夜の街中危ないし。……ダメかな?」


 そう言われると断れない。確かに送ってもらえるとありがたいことも確かだし。


「8時に終わるから。階段のところに居て」


「わかった!」


 達樹は元気になった。


◇◇◇


 バイトが終わり、私は達樹と合流した。


「じゃあ、行こうか」


 達樹が私の手を取る。


「何してるのよ」


 私は手をふりほどいた。


「ダメだった?」


「ダメに決まってるでしょ。私は楓の代わりじゃないよ」


「そ、そういうつもりじゃ……」


「いいから行くよ」


 ちょっと凹んだ様子の達樹をおいて歩き始める。


「あ、あのさ……」


「何?」


「できるだけ迎えに来たいんだけど」


「はあ?」


 私はあきれて言った。


「だって、危ないだろ。夜の繁華街だし」


「大丈夫よ。今までも大丈夫だったんだから」


「そうとは限らないだろ。心配なんだよ」


「そんなことしても、私は楓の代わりにはならないからね」


「それ、言わないでよ。結構凹む」


 ちょっと、意地悪言いすぎたかな。でも、はっきりさせておきたい。


「ねえ、正直なところどうなの?」


 私は立ち止まって言った。


「え?」


「私に興味あるの? それとも楓の代わりを探してるだけ?」


「もう、楓のことは何とも思ってない。俺は笹川理子が好きなんだ」


「なんか信じられないのよね」


「なんでだよ。確かに最初は同じ雰囲気を感じたけど」


「やっぱり」


「最初だけだって。だって、知れば知るほど理子は楓とは全然違う」


「どこが?」


「ツンツンしてるけど、理子はそこに優しさを感じるんだよ。トゲが無いというか……」


「ふーん」


 つまり、楓には優しさは無かったということか。まあそうだけど。あの子は暗い感情が出ちゃってるから。


「ある意味、正反対なんだよ、理子と楓は」


 へぇー、わかってるじゃん。


「で、私のこと好きなんだ」


「い、いや、それは……」


「さっき、好きって言っちゃってたよ」


「え? そうだった?」


「うん」


 私は思わず笑ってしまう。無意識に好きって言ってたのか。


「いや、あの……ちゃんと告白するから」


「まだしなくていい」


「えー!」


「とりあえず、毎日迎えに来て」


「え、いいの?」


「店の外で待ってるならいいよ。あんたのこと、もっと知りたいから」


「わ、わかった! 毎日行く!」


「よろしくね、達樹」


「おう!」


 達樹は分かりやすく元気になった。


 それにしても、どうしよう。もしも、達樹が告白してきたら。私は受け入れるかもしれない。だが、それがバレたら楓は誤解するだろう。

 早めに楓と話し合ったほうがいいかもしれない。

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