第22話 入部

 木曜日、俺は少し遅れて登校したので高井さんから声を掛けられることは無かった。


 放課後、陽春が俺の席に来る。


「和人、今日は文芸部行く?」


「……ここ教室だぞ、名前」


「もういいじゃん。高井さん達には知られちゃったし」


「はあ……文芸部、行くよ」


「そ、そうなんだ。じゃあ……」


「言ったろ、入部するって」


「よかったー!」


 陽春の大声に教室中の注目を浴びてしまう。


「わかったから。さっさと行こう」


 俺たちは教室を出て文芸部の部室に向かった。


「浜辺陽春と櫻井和人、入ります!」


 陽春が大声でそう言って文芸部のドアを開けた。

 部室には三上部長と長崎先輩が来ていた。三年生の教室の方が近いのでいつも先に来ているのだろう。


「お、櫻井君。来てくれたか」


「はい。入部したいと思って」


「そうか! ありがとう。じゃあ、これを……」


 俺は入部届に記入し、正式に部員となった。


「和人、文芸部でもよろしくね!」


 陽春が握手を求めてきた。


「あ、うん」


 俺は握手をする。


「あれ? 名前で呼んでる」


 長崎先輩が気がつく。


「もしかして、付き合いだした?」


「違います」


 俺はすぐに否定した。


「陽春が名前呼びがいいって言うので」


「そうなんだ。へぇー」


「ま、部内恋愛は問題ないからな」


 三上部長が言う。そりゃそうだ。部長自ら長崎先輩と付き合っているわけだし。


「頑張ります!」


 陽春が三上部長に敬礼した。いや、頑張るって、付き合いたいってことになるから。


「あれ? 一方通行なの?」


 長崎先輩が俺に聞いてくる。


「いや、その……勘弁してください」


 俺は答えられなかった。俺も好きです、とかここで言える訳ない。


「そっか。青春してるねえ」


「いや、先輩達のほうがしてるでしょ」


「そう? まあそうか」


 長崎先輩は三上部長を見た。三上部長も長崎先輩を見て見つめ合っている。


「あー! そうやってすぐ2人の世界に入っていくんだから」


 陽春が2人の先輩に言う。


「私たちも2人の世界に入ろう!」


 陽春が俺の腕を取って引き寄せる。


「いや、おかしいだろ」


「なんで?」


「だって、俺と陽春は……」


「あ、そっか。じゃあ、付き合う?」


「えっ!?」


 ここで告白? これはちゃんと答えていいのか?


「ハハハ、冗談! 冗談!」


 陽春は俺の背中を叩いた。


「お前なあ……」


 とりあえずホっとした。


「陽春ちゃん、あのね、そういうのはちゃんと――」


「わ、わかってますから」


 長崎先輩の言葉に陽春が動揺していた。


「櫻井、俺は古い人間なのかもしれんが、そういうのは出来れば男子が……」


 三上部長が俺に言ってくる。


「え? あ、ああ。そうですよね、やっぱり」


「そう? 今の時代、どっちからでもいいでしょ?」


 長崎先輩が三上部長に言い返す。


「まあ、そうだけど、やっぱりなあ」


「考えが古いのよ、大地は」


「こ、こら。部室では部長と……」


「あ、ごめん、部長」


「ほら、隙あれば2人の世界になるから。ウチがどれだけ大変だったか、和人分かった?」


 陽春が俺に聞いてくる。


「なるほどな。確かに大変だ」


「さ、櫻井君まで……」


 長崎先輩が照れている。


「ごほん、とりあえず部活動を始めよう。今日は木曜だから創作活動だ。櫻井は書評のための本を読んでいいぞ。ここにある本は自由に読んでいい」


 三上部長が急にちゃんと話し出した。


「本って、どこに……」


「あ、ここだ」


 三上部長はホワイトボードの裏を指した。そこは物置だと思っていたが、良く見ると本棚もあった。


「じゃあ、ちょっと見てみます……」


 俺はホワイトボードの奥にある空間に足を踏み入れた。そこの棚にはよくわからない箱とともに、たくさんの本が雑に置かれていた。SFやミステリー、ライトノベルもあるし、太宰治、ヘミングウェイなどもある。


「なんかジャンルがバラバラですね。どこに何があるんだか……」


「そうなんだよな、俺も整理しようとは思ってるんだけど」


「……少し俺が整理してもいいですか?」


「いいぞ、是非お願いしたい」


「じゃ、私も手伝う!」


 陽春が来て、2人で本の整理を始めた。

 俺はSF、ミステリー、純文学などジャンル別に本を分けていくことにした。大変だがやり始めると面白くなってきた。


 こうして俺の文芸部としての活動が始まった。

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